アカタテハ

───疲れた。


今日も、外の世界は目まぐるしかった。

後輩のミス。そのカバー。上司への根回し。

なぜ、私がそこまでしなければならないのかしら。


それでも、いつもの時間までにすべてを終わらせる。

——私は、優秀だ。


カフェへ向かう途中で、あなたを見つけた。


「そんなに、かっこよくないですよ」


ああ、あの子ね。

いつもあなたを見つめていた、あの子。


ご愁傷さま。

拒絶されているじゃない。


これで、あの子はもうカフェには来られない。

そう思いながら、私はその光景を横目で追い、

小さく鼻で笑った。


いつものカウンターの席。

いつものカフェモカ。


それが、私の日常。

私だけの、オアシス。


───ほら、来た。


あなたは、いつもより少しだけ遅れて現れた。

何事もなかったかのように。

何も、変わっていない顔で。


甘い香りが、店内に満ちる。


私のオアシスは、

今日も変わらず、

あなたの香りに支配されていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る