アゲハ蝶

───彼を、誰にも渡したくない。


あなたが誰かのものになる前に、

いっそ私のものにしてしまえばいい。

そう思ってしまった。


彼がいつもカフェに現れる時間を見計らい、

私は待ち伏せした。


来た。

姿が見えなくても、あなたの甘い香りでわかった。


「あの……前からカフェで気になっていて。

その……かっこいいですよね」


精一杯の勇気だった。

ただ、繋がるきっかけがほしかった。

他の蝶に、奪われたくなかった。

それだけだった。


「そんなに、かっこよくないですよ」


困ったように、やさしく微笑む。

その目は、はっきりと拒絶を示していた。


拒まれたのだと、すぐにわかった。


それ以上、あなたに何も言えなかった。

何を口にしても、同じ結末しか見えなかったから。


私は、あなたの背中を見送ることしかできなかった。

カフェへ向かう、その後ろ姿を。


もう、行けない。

あの場所へは。


甘い香りに満ちた、

あの花園へは。

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