大失敗と大成功な高校デビュー
こうなってしまった全ての原因はというと、少し前に行われたあの入学式の日での醜態にある。
クラス内で行われた自己紹介。高校生活における第一歩目を踏み出す瞬間。
私はそこで何としてでも成功をさせたいと意気込んでいた。
というのも、中学生までの私は地味なオタク女子。
冴えない。パッとしない。話し掛けられない。
もうね、見事なまでの負の役満ぶりだったよ。
だからこそ、高校生活では順風満帆な日々を送りたいと思っていた。
上位じゃなくても、せめて普通な……人並みの人生を送りたいと願った。
なので、それなりには努力はした。頑張って壁を乗り越えようとやってはみたさ。
しかし……そこで私は早速やらかしてしまった。
『わ、わひゃし、か、きゃさまつひめこ……じゃなくて、笠松姫子って言います! よ、よよ、よろしく、お願いします!』
備えて臨んだというのに、かなり練習したというのに。
意気込み……というか、気負いすぎて、私はミスをした。
極度の緊張によって
正直、思い出すだけでも死にたくなるレベルの出来事だ。
高校デビュー大失敗。周りからの視線が痛かったのは言うまでもないだろう。
そんな具合だから、高校生活は始まったばかりだというのに、速攻で浮いてしまったよね。
向こうからは絶対に話し掛けてこないし、私からも怖くて何もアクションが出来ないというね。
連絡先とか誰とも交換できなかったし……マジであの時の自分を呪ってやりたい。
ちなみにそんな私と違い、奏多はというと――
『えー、オレは浦和奏多。こんななりしてっけど、男だから。そこんとこ、よろしくなー』
男だと言いながら女子の制服を着て、女の子のような声質でそう言って微笑むその姿。
どこからどう見ても完璧な美少女だった。男だと言われても、信じられないぐらいに。
そんな衝撃的な自己紹介をするものだから、クラスの誰もがあいつに注目をした。
一気に話題の中心となり、休み時間になればあいつの周りに人だかりが出来る。
それほどまでにインパクトのある出来事だったのだ。
いや、まあ……女装したやつがクラスにいれば、そうなるよね……。
そして気が付けば、瞬く間にクラスの……いや、この
カースト最底辺にいる私とは真逆の存在。
憧れというか、素直に羨ましいと思ってしまう。
女子は女装をするあいつにドン引きするどころか、ノリノリで受け入れているし。
男子なんかは、あいつの可愛さを見て浮かれている。まるでアイドル扱いである。
奏多に対する周りの対応は、全て女子を想定してのもの。完全にバグってる。
しかも、一番ヤバいのが……あいつに惚れて、告白をする男子が後を絶たないということだ。
いや、おかしいでしょ! どうして男が男であるあいつに告白しているんだよ!
そういうのは漫画とかで起きる話でしょ! そんな
……ちなみに当たり前の話だけど、あいつにアタックしたバカ共は、もれなく全員撃沈、玉砕してます。
『いや、普通に考えて無理だから』
考える余地もなく、あっさりと断られていくらしい。
まあ、見た目は女でも、中身までしっかりと女という訳じゃないから……。
そんなことが頻発するものだから、私は心の中であいつのことを『ハニトラ男子』って呼んでる。
ハニトラ――ハニートラップの略称。
奏多という甘い蜜に釣られてホイホイと相手がやってくるものだから、あいつにお似合いのワードだと思う。
まさに地雷のような男だよ。外見だけで近付いたら、完全にやられるというね。
けど、こんなバリバリのトラップモンスターが人気者だとか、マジでありえない。
というか、出来ることなら私と立場を代わって欲しい……いや、やっぱりいいです。
学年の人気者とか、小心者の私には土台無理な話だから……。
そんな風に考えたところで、何も進展しないし、何も踏み出せない。
どんどんと人気になっていく幼馴染に劣等感を頂きながら、今日をやり過ごしていくだけ。
ホントに、どうしようもないというね……。
次の更新予定
2025年12月27日 12:06 毎日 12:06
ハニトラ男子なんて許せない!~S級美少女な女装男子の幼馴染が女の私よりモテすぎるのでキレたら、そいつから「変えてやるよ」と迫られた件~ 八木崎 @phoenix_yagisaki753
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