第3話 第三の性別にも弱点はある――後半戦で逆転します


 徐々に点差は開いて、前半戦で12対22。

 運動神経抜群の彩芽無双のせいで劣勢に立たされる。


 ――パワーとスピードもだけど、実は体格もいいんだよな。


 昊(おそら)は見栄えのするモデル体型だ。


 セクシーなブラジリアンヒップを形成する前傾の骨盤と発達した大殿筋は短距離走向きの筋骨だし、腰の位置が高く脚が長い、ということは一歩が大きいということ。

それだけ走るのが速いということでもある。


 おまけに腕も長いため、リーチもある。

 理想的なアスリートスタイルだ。


 ――しかもバストを支える大胸筋も強いから、アタック力もある……最高かよ。


 だけど、俺は絶望していなかった。

 闘志は十分。勝負は後半戦だ。

 1分の休憩を挟んで試合再開。

 俺がボールを手に心音たちのゴールへ向かう。

 息を切らせて追いかけてくる彩芽を振り切り、スリーポイントシュートをキメた。


「うっしっ」


 思わずガッツポーズを作った。

 次は彩芽のボールで再開。

 俺の仲間が彩芽に襲い掛かると、ボールは心音に回された。


「心音!」

「わわ、光馬っ」


 俺が迫ると、心音はちょっと戸惑いつつ及び腰。

 迷うように視線を泳がせてから慌ててシュートした。

 大きく孤を描いたボールはリングを外れて落下。

 紬麦とのリバウンド合戦にもつれこんだ。

 互いに大きく跳躍した。


「ワタシ今日ノーブラです!」


 客席で山田がガッツポーズ。


「だからどうした!?」


 俺の手は紬麦の頭上でリバウンドをキャッチ。

 仲間にパスをすると、きっちりゴールをキメてくれた。

 流れは、完全にこちらに来ていた。


「くっ、やはりノーブラよりノーパンかぁ……光馬さんから勝利のご褒美をもらうためにもここは手段を選ばず……」


 握り拳を震わせながらブルマの中に手を入れる紬麦を尻目に……俺は彩芽に歯を見せて笑った。


「どうした彩芽、電池切れか? 三分経てばウルトラマンもただの人だな」

「はんっ、まだまだこれからよ」


 抗うように、彩芽ははつらつと笑った。


 けれど立場は完全に逆転。


 彩芽たちが一回ゴールする間に、俺らは二回以上ゴールする。

 そう、昊の身体は出力重視である速筋の比重が多い。

 

 そして速筋はパワーがあるぶん、持久力が無い。

 スタミナという一点において、昊は女子未満なのだ。


 試合終了五秒前。

 最後のワンプレイで彩芽は汗だくになって俺に追いすがるも、楽々振り切り、最後のシュートをキメた。


「試合終了!」


 ブザーが鳴り、藤宮先生が終了を宣言した。

 結局、得点は39対34で男子チームの勝利だ。

 客席の男子達は口笛と拍手を鳴らしながら拍手喝采。


 俺も仲間の男子二人と肘を曲げて腕を組んだ。


 互いに視線で健闘を讃え合うと気分は最高だった。

 腕を解いて振り返ると、まさに死屍累々。


 心音は仰向けに倒れたまま動かないし、紬麦に至ってはヤムチャポーズで白目を剥いて、口を半開きにして痙攣していた。


 ――119番しなくて大丈夫か?


 あと、白目で気絶した紬麦を見ても嬉しくなかった。

 よかった。俺の性癖は正常だ。


「はぁ はぁ はぁ あ~、くっそ。悔しいわね、今度は逃げ切れると思ったんだけどなぁ~」


 後腐れない、快活な笑顔で彩芽が勇ましく歩いてくる。

 汗で濡れたシャツが体に張り付いて、中に着ているランニングのラインが透けて見ている。


 こいつだって、本当は四肢を放り出して寝ころびたいだろうに。

 たくましいやつだ。


「ナイスプレイ光馬」


 スポーツマンシップにのっとった爽やかスマイルで、握手を求めてくる。

 その手を見ると、心地よい疲労感の内側から言いようのない達成感が湧きあがる。


「そっちもな。それと、次も勝たせてもらうぜ」


 俺が彩芽たち限定で全力を尽くす理由。

 そんなものは決まっている。


 こいつらとの勝負は楽しいんだ。


 彩芽と硬い握手をかわして視線を合わせる。

 手の平越しに伝わって来る熱が心地よかった。


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