第2話 美少女なのにダンクしてくるとか聞いてない
異世界ライフの話をしよう。
よくある話だ。
高校の卒業式。
その帰り道で仲間たちと浮かれてハシャいで、道路に飛び出して俺の人生は終わったはずだった。
ライトノベルなら何もない空間に女神様が登場。
『間違えて殺しちゃったテヘペロ。お詫びにチート能力をあげるから異世界でハーレム無双ライフを楽しんでね♪』
なんてのがお約束だ。
けれど、女神に会うこともチート能力を与えられることも無かった。
では現代知識チートするタイプか?
残念ながら平均的一般凡人類の高校生である俺に、そんな知識は無い。
火薬やマヨネーズの作り方はおろか、ノーフォーク式農業の方法も知らん。
俺を剣と魔法と勇者と魔王と奴隷エルフや猫耳獣人のファンタジーに放り込んだところで、転生初日でゴブリンに殺されるのがオチだろう。
だが心配することなかれ、俺が転生したのは剣も魔法も勇者も魔王も奴隷エルフも猫耳獣人もいない世界だ。
驚いたことに文化風俗はほぼ日本。
なんなら、言語も歴史も、週刊少年ジャンプに連載している漫画すら同じだった
では異世界転生ではなく、輪廻転生? 未来に生まれた?
いや、ここは紛れもなく異世界だ。
厳密には、パラレルワールド、と言うべきかもしれない。
何故なら、ありとあらゆるものが共通しているこの世界にはただ一点、致命的なまでに異なる点があった。
それは……。
この世界には第三の性別……昊(おそら)がいるのだ。
◆
試合はまず、男子チームと昊子チームの3ON3で行われた。
彩芽、心音、紬麦の三人、に俺率いる男子チームが挑む。
最初のボール争いは俺VS彩芽。
目の前で対峙する彩芽が犬歯を見せて、挑戦的な笑みを見せてくる。
彼女の白い歯に、俺も気分が高揚してきた。
心臓の鼓動が、一段高くなり手の平が熱を持つ。
俺は熱血系、というわけではないも、内輪限定で負けず嫌いの傾向がある。
誰に何で負けても構わない。
なのに、彩芽たちとは幼い頃からゲームひとつでも負けたくない。
それは何故かって?
それは……。
「試合開始!」
ブザーが鳴り、藤宮先生がボールを真上に放り投げた。
「よっ」
軽く腰を落としてから、曲げた膝を伸ばして、全力で床を蹴る。
俺と彩芽が宙へ跳んでも、目線の高さは変わらない。
だけど、数センチの身長差が俺らにボールをくれるはずだった。
けれど次の瞬間、彩芽の得意顔が俺を見下ろした。
「なっ!?」
「にひ、ボール、もーらいっ!」
彩芽の手の平が先に、バレーボールのアタッカーよろしくボールを叩いた。
「させるか!」
一瞬遅れて俺の手も反対側から押し返す。
けれど、勢いの付いたボールが俺の腕力と拮抗するのは一瞬だけ。
「ふんっ!」
彩芽が力を込めると、ボールは落雷のような勢いで紬麦の手にシュートされた。
「いきますよぉ♪ 先取点!」
意気揚々と紬麦はドリブル。
風を切り裂くように高速で俺らのゴール下へ向かう。
慌てて、俺の仲間が追いかける。
けれど、疾風怒涛の勢いでコートを駆け抜けた紬麦は男子の追走を振り切りシュート。
「まずい!」
着地後、舌打ちをせんばかりに前傾姿勢で走り出す俺の視線の先で、ボールはリングでバウンドした。
仲間の男子が跳んだ。
でも、リバウンド争いは、最初からゴールの下で待っていた心音に軍配が上がった。
「ボールをよこせぇ!」
「わわ、えっと……えいっ!」
怯むのは一瞬だけ。
心音は素早くボールを床に叩きつけた。
股下からのバウンドパスで、ボールは彩芽に向かって弾んだ。
「ナイス!」
笑顔をはじけさせる彩芽が、両手でキャッチポケットを作る。
「まったくだな」
そのボールを、俺は横からダイビングキャッチをして奪った。
「なっ!?」
彩芽が俺の動きに瞠目する。
「俺がお前を野放しにするわけないだろ?」
ボールを手にした俺は、床を一回転してからドリブル。
彩芽たちのゴールへ向かった。
前世の体より背が高くて運動神経はいいと思う。
くわえて、俺自身が幼い頃から意図的に運動をしたこともあり、俺のスポーツセンスは運動部並みになっていた。
ただし……。
「行かせないわよ!」
バトル漫画に出てくる戦闘民族のように愉しそうな顔で彩芽が先回りしてきた。
観客の女子たちが彩芽の身体能力に驚きの声を上げる。
「流石おそら……」
「運動能力すご……」
「なんつう揺れ……」
「どこ見てんだよ」
山田が斎藤に頭を叩かれる。なんてどうでもいい。
彩芽の手から逃れるように俺はボールを反対側の手にパス、さらに自分の股下から背後に回してからキャッチしてジャンプ。
スリーポイントシュートを狙ったつもりが、彩芽が先に跳んでいた。
三次元全てで先回りされた俺は完封。
空中でボールを叩き落とされてしまう。
それを心音がキャッチして、紬麦へパス。
仲間の男子が紬麦と心音をディフェンスしたら当然……。
「彩芽さん!」
「よしきた!」
俺の追走を振り切った彩芽へレーザーのようなパスが放たれた。
そのまま彩芽は高速ドリブルで移動。
二人の男子がたちはだかるも、まるで往復ビンタをするように激しく左右へ動きながら避けて跳躍。
彩芽は遥か上空のゴールポストにダンクシュートをキメた。
叩きつけるような勢いにリングが揺れる。いわゆる【スラムダンク】だ。
観客の女子たちが歓声を上げて拍手喝采。
男子たちは頬を緩めながらも息を飲んでいる。
彩芽はゴールポストから手を離して音もなく着地。
紬麦、心音の二人と拳を合わせた。
「先取点ゲットよ!」
――ちっ、やられたぜ……。
額に汗をにじませながら、俺は大きく息を吐き苦笑した。
昊は、女子並みに華奢な手足や肩をしている。
けれど、それは見た目だけ。
骨密度は極めて高く、おまけに筋肉は出力重視の速筋の比重が高い。
パワーとスピードにおいて、男と昊はまったくの互角なのだ。
その証拠に、この世界では多くの昊性(こうせい)武将が歴史に名を残している。
俺らのボールで試合続行。
けれど、こちらが二回ゴールする間に、彩芽たちは三回はゴールする。
徐々に点差は開いて、前半戦で12対22。
運動神経抜群の彩芽無双のせいで劣勢に立たされる。
――パワーとスピードもだけど、実は体格もいいんだよな。
昊(おそら)は見栄えのするモデル体型だ。
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