Love case1 初恋バンパイア、アノンの場合 その③
ワシに入れ知恵されたアノンが「夜の間にカタをつける!!」と、慌ただしく小屋を飛び出して行った後。
その後ろ姿を見送ったワシは、ゴソゴソと戸棚の中を漁っていた。
「主、何を探しているんだ?」
「あぁ、
突然戸棚を漁り始めたワシを不思議そうに見つめるシュバルツにそう答え、取り出した水晶をテーブルの上に置く。
これを使うのも随分と久しぶりだ。
「珍しい。わざわざアノンの様子を見守るのか? 主はもう人間界には関わりたくないんだと思っていた」
「成り行きじゃ。仕方がなかろ」
純血種のバンパイアであるアノンは、はっきり言ってめちゃくちゃ強い(アホじゃが)。
普通に考えれば人間ごときに遅れをとるわけがないのだが、普通じゃないのが昨今の人間界なのだ。
念の為に見守るくらいはしてもバチはあたらんじゃろう。
「久しぶりに使うから何だか埃っぽいのう。シュバルツ、何か拭くものを持ってきておくれ」
「ああ」
シュバルツの持ってきた布で水晶を拭き、魔力を通す。そうこうしている間にアノンは早くも人間界へ渡っていたらしく、水晶の中には既に騒ぎになった人間界の様子がうつっていた。
アノンは小脇に1人の少女を抱えて宙に浮き、矢を放ってくる人間達のその矢を跳ね返している。輝く月を背に高笑いをするアノンの姿は絵面的には完全な悪役だ。
……が、どう見ても少女は自分の意思でしっかりとアノンに抱き付いているので、まぁアノンの独りよがりではなかったのだろう。
良かった、実はそこだけちょっと心配だった。
アノンは得意の超音波攻撃で人間達を大人しくさせると、そのまま大事そうに少女を抱えて魔界と人間界を繋ぐゲートの方へと飛んだ。
アノンと、聖女だというその少女がそれは幸せそうに笑いあっているのが水晶玉にうつる。
「惚れた女の為に戦えるなんて、男冥利に尽きるじゃないか。……良かったの、アノン」
あそこまで行けばもう大丈夫だろうと水晶玉の映像を切ると、ワシは重い腰を上げた。
良かったの、とは言ったものの、これでこのまま『こうして2人は末長く幸せに暮らしましたとさ』とはいかないのが現実というものだ。
「……さて。入れ知恵した分のアフターフォローって奴をしてやろうかの」
ワシは戸棚から紙の束を取り出すとニヤリと笑った。
◇ ◇ ◇
そしてひと月ほどが過ぎたある日。
アノンが一人の少女を連れてワシの小屋にやってきた。水晶玉で見たあの聖女だ。
さらさらと流れる白銀の髪に、白く透き通るような肌。そして上質のサファイアを思わせる澄んだブルーの瞳。アノンが一目惚れしたと言うだけあって、すんごい儚げ美少女だ。
黒髪赤目で態度もデカいアノンとは全てが正反対で、それ故に二人はまるで対の存在のようにも見えた。
「オババ! サラを連れてきたぞ!」
「はじめてお目にかかります、魔女さま。この度バンパイア族の末席に加えていただきました、サラと申します」
……そう。あの日ワシはアノンにこう告げたのだ。
『アノンが人間になるのではなく、サラをバンパイア族に迎え入れてはどうか』
と。そもそも同胞を増やしに人間界へ渡ったバンパイアが、惚れた人間を見つけて何故その発想に至らなかったのかが不思議なくらいなのだが……。
おバカではあるが信じられないほど気のいいアノンは、恐らくサラに惚れた瞬間に『相手をバンパイアにする』なんて考えが頭から吹き飛んでいたのだろう。
本来であれば、それは相手にとって多大な苦労を強いることになるのだから。
アノンの後ろから一歩前へ出てワシにそう挨拶をしたサラは、ワシの顔を見て驚いたように目を丸くした。
「どうした? ワシの顔になんぞついておるかい?」
「し、失礼いたしました! アノンから『オババ』と聞いていたので、もっとご高齢の方を想像していたのです。魔女様がこんなにお若くて美しい方だったなんて……!」
フム、褒められて悪い気はしないが、事実として歳はくっておるのでな。
「間違っておらんよ。こう見えてワシは、ゆうに500歳はこえておる」
「ええええ!?」
「なんじゃ、アノンから歳の話は聞いておらんのか。……まさかアノン、お主自分の歳も伝えておらんのではあるまいな?」
「あ、そういえば特に言ってなかったな! 私は126歳だ」
「えええええええ!?? と、歳上!?」
アノン、歳下じゃと思われておったのか…。
……っていうか、そこ?
目を丸くして驚いた後、オロオロと困惑する聖女サラと、それを蕩けるような笑顔で見つめるアノン。
サラは外見からしてもっと大人しいタイプの少女かと思っていたが、こう、クルクル変わる表情が実に愛らしい年相応(ちなみに歳は17歳らしい)の少女だった。
これが俗に言うギャップ萌えというやつか。
……うん、いいのう!!
サラに歳についての説明をしていたはずが、何故か徐々にイチャイチャした方向へ会話が向かう2人をニヤニヤしながら眺める謎時間をしばし過ごした後、2人から改めて今回の件の礼を言われた。
「そんな改まった礼などいらんいらん、結局アノンが自分で解決したようなもんじゃろう。ワシは何にもしとらんよ。相談料はちゃんともらったんじゃから、それで終わりじゃ」
「そんなもんで良いのか? 私は今回の件ではオババにとても感謝しているんだ! もっと払うぞ!? バンパイアに伝わる秘宝とかいらんか?」
「……いらん」
そんな簡単に秘宝を差し出そうとしないでおくれ。むしろ怖いわ!
それでも何かしたそうなアノンとサラの2人を、笑って小屋から追い出す。
まぁその内、二人に子でもできたら顔を見せに来ておくれ。
年寄りはそんなんが大好きじゃからの!
オババの魔界恋愛相談所へようこそ! 時枝 小鳩 @cuckoo-clock
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