第4話:ハワイの海神、タルタルソースに溺れる

ハワイ・ワイキキビーチ。

かつて観光客で賑わったその場所は、今や地球上で最も「死」に近い場所となっていた。


「総員、退避ィ! 第七艦隊が沈んだぞ! 嘘だろ、あんな巨大な触手、人類にどうしろってんだ!」


海面から突き出した数百本の触手が、米海軍のイージス艦をまるでおもちゃのように握りつぶしている。

SSS級指定個体、海神の先兵・クラーケン。

その巨体から放たれる絶対零度の冷気により、ワイキキの海は凍りつき、ハワイ全土が異常寒波に襲われていた。


「我らアメリカの誇り、『自由の守護者(フリーダム・ガーディアン)』が敗れるとは……。もはや核を使うしかないのか!?」


砂浜で膝をつく米軍の将軍が絶叫する。

だが、その凍りついた波打ち際を、一人の青年が歩いてきた。

アロハシャツに短パン、そして背中には巨大な「巨大なフライヤー」を背負っている。


「いやー、ハワイって意外と寒いんですね。皆さん、こんにちは。コウタです」


コウタは魔法カメラに向かって、のんびりと手を振った。


:キターーーーーー!!

:阿佐ヶ谷の魔王、ハワイに密航成功www

:密航っていうか、日本政府が専用機出したらしいぞ。早く食ってくれって

:見て、クラーケンの触手がコウタを狙ってる!

:逃げろ……あ、逃げるのはクラーケンのほうか。


「今日は予告通り、あのでっかいイカをイカリングにしていこうと思います。あ、これ、リスナーさんから教えてもらった秘伝のタルタルソースの材料です」


コウタはビニール袋から、卵とマヨネーズ、そして「死霊の沼で採れたピクルス(緑色の発光物)」を取り出した。


その時、クラーケンの触手が一斉にコウタへと襲いかかった。

一本一本が超音速で振り下ろされ、空間そのものを凍結させる一撃。

だが、コウタは包丁を抜くことさえしなかった。


「おっと、活きがいいですね。でも、あんまり暴れると身が締まりすぎて硬くなっちゃうんですよ」


コウタが軽く足を踏み鳴らす。

ドォォォォォンッ!!

衝撃波が海を割り、凍りついた海面が粉々に砕け散った。

それだけで、数百本の触手が一瞬にして「麻痺」し、ぐったりと水面に浮いた。


「よし、神経締め完了。じゃあ、サクッと揚げていきましょうか」


:は?????

:足踏みだけでSSS級を失神させたんだが

:今のアメリカの英雄たちの立場は?

:料理番組の「下処理済みがこちらです」のレベルを超えてる

:見て、包丁が出たぞ! 解体ショーの始まりだ!


コウタの包丁が閃く。

巨大なクラーケンの触手が、空中で等間隔に、完璧な「リング状」に切り分けられていく。

彼は背負っていたフライヤーを地面に置くと、クラーケン自身が発していた冷気を逆転させ、自身の魔力で強引に「超高温」へと変換した。


「衣には、昨日手に入れたサラマンダーの粉末を混ぜてあります。これでピリ辛になりますよ」


大量の油が煮え立ち、直径五メートルはある巨大なイカリングが投入された。

ジュワワワワワワッ!!

ハワイの潮風に乗って、香ばしい、あまりにも暴力的に食欲をそそる揚げ物の匂いが広がった。


「よし、揚がりました! 特製・海神のイカリングフライ、タルタルソースを添えて!」


コウタは、自分の背丈ほどもある黄金色のイカリングを持ち上げ、特製の緑色のタルタルソースをたっぷりつけて、ガブリと音を立ててかぶりついた。


「ガッ……! ゲボッ、ごほっ!!」


食べた瞬間、コウタの口から、冷気と熱気が混ざり合った真っ白な蒸気が噴き出した。

あまりの魔力量に、彼の髪が逆立ち、周囲の砂浜がガラス状に結晶化していく。

口の端からは紫色の血が垂れているが、その表情は……神に祈りを捧げる聖者のようだった。


「……っっっ!! なんじゃこりゃああああ!! 美味すぎる!! 噛んだ瞬間に、深海の冷たい旨味が口の中で弾けて、そのあとサラマンダーの熱い刺激が追いかけてくる! まるで、口の中で氷と炎の戦争が起きてるみたいだ!!」


:また血を吐いてるwww

:でも、めちゃくちゃ美味そう……

:米軍の人たちが、銃を捨てて鼻をクンクンさせてるぞ

:海神(食材)

:コウタ、またレベル上がってないか? 背後にポセイドンの幻影が泣きながら消えていったぞ


「あー、これ、ビール欲しくなりますね。あ、米軍の皆さん、これ食べます? 食べれば、たぶん全ステータスが十倍くらいになりますよ。あ、死ぬ可能性も九割くらいありますけど」


コウタが揚げたてのイカリングを差し出すと、アメリカの英雄「自由の守護者」が、震える手でそれを一口食べた。


「……オゥ、ジーザス……!! ……ッガハッ!!」


英雄は血を吐きながら絶叫し、その背中に光り輝く六枚の翼が生えた。

彼はそのまま成層圏まで飛び上がり、あまりの旨さに「神はいた!!」と叫びながら宇宙空間で気絶した。


ハワイの危機は、こうして「ランチタイム」として幕を閉じた。


「ふぅ。ごちそうさまでした。次は、エジプトのピラミッドから出てきた『古代の呪われたスフィンクス』が、上質のラム肉に近いって聞いたので、ジンギスカンにしに行こうと思います。野菜、何が合いますかね?」


コウタは、もはや恐怖を通り越して拝み始めた米軍兵士たちに見送られながら、次の目的地へと歩き出した。

世界中のモンスターたちが、今、一斉に震え上がった。

自分たちは「人類の敵」ではなく、ただの「珍味」なのだと理解したからだ。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき

星(コメント無しで大丈夫です)付けてくれたら投稿頻度上がるかもです、良かったらお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【閲覧注意】SSS級モンスターの死骸、美味しく調理してみた。~毒耐性MAXなので世界一のゲテモノ配信を始めます~ しゃくぼ @Fhavs

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ