第3話 布団で眠りたい
私はマシロ。成仏未遂の幽霊だ。
バスルームで目覚めて以来、湯船を出たことがなかった。というのも、眠ったことがなく、そもそも眠いと感じたこともない。だから日がなバスルームの小窓から外の景色を眺めてきた。
私には生まれて以来バスルームで目覚めるまでのいわゆる生前の記憶というものがまったくない。
故に、人間は夜眠るという基本的な事柄が理解できていなかった。和也という侵入者をゆるしてしまってから、そのことに気がついた。人間は夜眠るのだ。眠くてしょうがない。眠る気がなくても眠ってしまうというくらい、それが自然であって、決して抗うことのできない動物的習性なのだ。
だとすると、私マシロもそれに従うのはごく当たり前のことなのだろう。
和也を観察してみる。陽が落ちてしばらくすると、やつは帰ってくる。疲れたようなそぶりで玄関に現れるが、あれは演技だ。私にはわかる、毎日のようにただ漠然と暇をもてあまし(実際はもてあますどころかあれで精一杯)、行き交う人々の姿を眺めて過ごすだけのぐうたら者(割と真剣にだた眺めている)に嫌味を言っているのだ。生きていくのはこれほどまでに苦痛と努力を強いられるのだと。
夕ご飯を食べて、風呂に入って寝る。そう。1日の最後は寝るで締めくくる。
私はバスルームで目覚めたのだから、バスルームで眠るのが当然かと思うが、あえて和也のように布団で眠ろうと思う。和也が布団を敷いた時がチャンスだ。今はまだ、テレビを見ているが、もうそろそろだろう。たまに、頭がガクッと下がる時があるが、あれはどうやら眠いのを我慢しているのだろう。かなり、しぶとく我慢している、時刻は午後11時35分。そろそろだ。
和也は突然むくりと立ち上がると、押し入れに向かう。案の定布団を取り出し、敷いた。早速、布団に潜り込む。ふわっとしていて、確かにバスルームの硬い湯船よりかは気持ちがいい。全身全霊の霊力を持ってすれば、私だって、眠ることは叶うだろう。
和也がドンっという感じで布団に入ってきた。勢いがいい。
「ヒャッ!冷たい!」
和也が情けない悲鳴をあげて、中を覗き込む。
「お前、そこで何してる?」
「寒いから、今夜は布団で一緒に寝ようかと」
「やだよ!お前、思いっきり霊気出しすぎで冷たいし」
「居候なんだから、それくらい我慢しなさいよ」
和也は諦めたらしい、恨めしそうな目でこちらをみている。
「寒くて風邪をひきそうだ。あんまりくっつくなよ」
私の半透明な純白の髪の毛がふわりと和也の腕にかかっている。それぐらいはあったかくはないにしろ、冷たくはないはずだ。和也はまだじっとこちらをみている。
「幽霊でもこの距離で見ると割と綺麗じゃねぇか!」
まさか·····、和也にそんなことを言われる日がくるなんて!思わず、嬉しくて和也のお腹の辺りに抱きついてしまった。和也は嬉しさのあまり悲鳴を上げている。
「さっ、寒い!凍死するぅ〜」
翌朝、和也は見事に風邪を引いてしまっていた。真っ赤な顔で鼻水を垂らしている。
お詫びに、氷枕と濡れタオルを持って行ったが、泣きそうな顔で首を横に振っている。
「マジで死ぬ!ホットココアで頼む!」
私と和也ではホットな展開は望めないのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます