第2話 今宵編

 転生とは、生あるものが死後再び生まれ変わることである。しかし、生前に人間として生きていた者が、転生後に再び人間に生まれ変わることは極々(ごくごく)稀(まれ)である。人は生きているうちに大なり小なり悪事を働く。それ故(ゆえ)に死者の魂は強制的に冥界(めいかい)の最高位である閻魔(えんま)の下に送られる。しかし、軽微な罪の者は死後の案内人によって、転生先を裁決できる権利を有していた。その組織は複数存在し、十六夜(イザヨイ)を長(おさ)とする零細組織には、夜宵(ヤヨイ)、今宵(コヨイ)、早宵(サヨイ)という『宵』の称号を与えられた3名が属していた。そんな案内人たちの下へ、1つの人間に転生できる魂が送られてきた。転生先が人間と既決している魂は珍しく、十六夜が直(じか)に対応していた。しかし、今回は今宵のスキルアップも兼ねて、彼女に案内を一任した。魂の経歴を見た夜宵は、今宵には時期尚早だと十六夜に進言するも、百聞は一見、百見は一考、百考は一行、そして、百行は一果だと却下される。夜宵は間違いが起こらないよう、今宵に言い聞かせるも、彼女は十六夜の言葉を復唱し、霊魂を現世に連れ出した。幽体を与えられた彼は40代の男性で歴史考古学者であった。遺跡の発掘中に落盤事故に遭い無事死亡とある。今宵は転生の説明で、改めて人間に生まれ変わるには、憑(つ)き人となり、一定期間その人の人生を負担しなければならないと言い渡し、あなたの場合、取り憑く人物が限定されていると言って、リストを取り出した。ツタンカーメン、ダビデ、アルトリウスの中では、誰の人生を一定期間過ごしたいか訊ねると、男性の霊は可能なら全員の人生を体験したいと積極的に申し出た。気を良くした今宵は、紀元前1333年、ツタンカーメンが10歳でファラオに即位した日へと男性を連れ出し、憑依(ひょうい)させた。マラリアと骨折の合併症によって、19歳で亡くなったツタンカーメンは、やはり杖をついて歩かなければならない虚弱(きょじゃく)な王だったと男性は証言した。今宵は次に賢王(けんおう)と称えられたダビデがいる、紀元前1000年に行き着いた。ここでは12の部族をまとめてイスラエルの王となり、エルサレムを首都に定めるという使命の他に、ソロモンを後継者に残すという大義が組み込まれていたが、男性は見事にやってのけた。最後はアーサー王のモデルとなったルキウス・アルトリウス・カストゥス。生没年が不明であるが、西暦185年にアルモリカに軍事指導者として遠征に行ったと記述されている。そこでアルトリウス(男性霊)は、ハドリアヌスの長城の警備、ローマ皇帝からの昇進。そして、アルモリカ派遣において、暴動の鎮圧を成功させた。——無事に人間として転生した男性は再び歴史考古学を専攻し、発掘隊に志願した。1915年、彼は発掘許可を入手。今宵は死亡証明書を取り出した。1922年、彼は41歳で念願の王の墓を発見するも、発掘中の落盤事故で無事死亡。今宵は墓穴を掘る、と付け足して十六夜の言葉を思い出す。その王の墓はツタンカーメンであった。

         今宵編 完

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