転生先の案内人

@shibakazu63

第1話 早宵編

 輪廻転生(りんねてんせい)という言葉がある。輪廻は車輪のように生死の繰り返しを意味し、転生は生まれ変わることである。冥界(めいかい)の王として死者の生前の罪を裁く閻魔(えんま)が君臨し、その眷属(けんぞく)として獄卒(ごくそつ)という鬼がいる。しかし、目立った罪もなく死者となった場合、その裁定の場から出た魂(たましい)は、死後の案内人に引き渡される。稀(まれ)に転生し、彼らを憶えている者は『天使』または『死神』と呼称する。この案内組織は冥界各地に存在し、十六夜(イザヨイ)を長(おさ)とする零細組織には夜宵(ヤヨイ)、今宵(コヨイ)、早宵(サヨイ)の3名の案内人がいた。西暦2000年、世界中で人間は1日20万人出生し、15万人が死亡する。十六夜の元には、平均で1日3人の死後案内を必要とする魂が送られていた。その日は16歳の高校生に思わぬ災難で死が確定していた。その処理を今宵に依頼しようとしたが、経験の浅い早宵が名乗り出た。現在彼女は死んだ少年を見下ろしていた。小学生のマンションからの飛び降り自殺を防いだ為、頭部を強打し高校生は無事死亡。死亡証明書に早宵が記載するのを高校生は黙って見ていた。自殺志願の小学生は軽傷で済んだ。さて、これから高校生の転生先を決めるのだが、その条件は誰かに取り憑(つ)いて一定期間その人の人生を負担することだ。高校生の彼は早宵の説明を最後まで聞かず、自殺理由を知るために命を助けた少年に取り憑いた。無事に転生を成功させるには、その憑き人の人生を8割以上実行に移す必要があるというが、高校生は空返事で小学校に向かった。そこで自殺に踏み切った理由が理解できた。少年は偏差値の高い私立小学校に通っており、中でも彼の学力は下の下であった。周囲から馬鹿にされ、教師や親からも罵倒(ばとう)されていた。高校生は喧嘩慣れしており、馬鹿にしたクラスメイトに手を出してしまう。両親にも連絡され、早宵から説教を延々と聞かされ、鬱憤(うっぷん)が溜まる高校生は早退した。下校途中、公園からボールが飛び出してくるのを目撃する。同時に幼稚園児と思われる男の子も出てくるが、車が来ているのに車道に転がったボールを目指していた。早宵が制止する間もなく、咄嗟(とっさ)に少年の身体を借りている高校生は男の子を庇(かば)う行動を取ってしまった。その結果……、幼稚園児を事故から防いで、小学生の少年は無事死亡と証明書に記載する今宵の姿があった。早宵は十六夜から、この2人目の死者である少年の死亡事項を知らされておらず、1つの経験を積まされたことを理解するが、己の未熟さも痛感した。改めて高校生は今宵が、小学生は早宵が担当することとなった。

        早宵編 完

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