第3話

どうして、みんな勘違いしているのかしら。

レオンは、私のものよ。

昔から、ずっと。

剣を握れなかった彼の手を、誰が支えていた?

魔物に怯えて震える彼を、誰が前に立って守った?


私よ。

だから彼は生きている。

だから彼は私の横にいるべきだ。

それだけの話だ。


私は強い。

誰よりも、剣に愛されている。

血も、痛みも、死も、全部を越えてきた。

王国が私を必要とするのは当然だし、

人々が私を讃えるのも自然なこと。

そして…弱い者は、強い者に従う。

世界は、そうやってできている。


レオンも同じ。

彼は、勘違いしたのよ。

自分で選んだつもりになっていた。

冒険者を辞め、メス豚と生きることを。


でも、それは違う。

弱い人間は選べない。

選んでいいのは強い者だけ。


私に選ばれたのに。

弱い彼は、私に守られる立場だったはずなのに。

なのに――あのメス豚、リィナとか言ったか?


あのメス豚を思い出すだけで、

胸の奥が熱くなる。

私より弱い。

私より劣る。

私より彼に相応しくない。

それなのに彼女は奪った。


どんな魔物を倒しても、どんな街を救っても、得られなかった『レオンの妻』という称号を奪った。


そして、その薄汚い股座で、彼を魅力して、私の王都の屋敷の豪奢なベッドの上で私が貰うはずだった『レオンの初めて』を。


奪っていったんだ!!


そして、…彼を壊した。

剣を持たせず、戦わせず、

ただ穏やかな日々を与えて。

そんなもの彼を駄目にするだけじゃない。


私なら彼を高いところに連れていけた。

英雄の隣に立たせてあげられた。

それが愛でしょう?


雨の夜、彼の家を訪ねたとき。

扉を開けた彼の顔が、

少しだけ――怯えていた。


その表情を見た瞬間、胸が満たされた。

ああ、思い出したのね。

私の前に立つときの顔を。

彼女が前に出た。


「彼は、私の夫です。」


あまりに滑稽で、笑いそうになった。

夫?

教会の神父の前で宣言しただけなのに?

私のものが変わるとでも?


剣をメス豚の喉元や薄汚い肚に向けたとき、

彼が叫んだ。


「やめてくれ! 俺はセリアの元に行くから!リィナとお腹の子には手を出さないでくれ!」


――ほら。

やっぱり。

彼は、私を選ぶ。

選ばざるを得ない。

それが真実。

彼は今、私の隣にいる。

剣を握り、血に塗れ、昔よりもずっと弱い目をして。

でも、それでいい。

弱いままでも、壊れていても、

私のものなら、完璧。

たまに思うの。

もし、彼が笑わなくなったら?

もし、何も感じなくなったら?

……それでもいい。

感情がなくても、

意思がなくても、

生きて、私の隣にいれば。

それが、彼にとって一番安全だから。

みんなは言うわ。


「英雄セリア」


「正義の剣」


「人々を救う女」


ふふ。

私は嘘をついたことなんて、

一度もない。

だって私は――欲しいものを、力で手に入れただけ。

それを悪だと言うのは、奪えなかった弱者の、嫉妬でしょう?


レオンは、今日も私の後ろを歩く。

でも昔とは違う、私と彼一番深いところでちゃんと繋がっている。


永遠にね。

愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して永遠に愛しているからね。


レオン!

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