断崖
私は断崖に掛けられた吊り橋のような不安定な足場を歩いています。
古い板の足場は今にも腐り落ちそうでとても怖いですが私はあの子を迎えに行かなければなりません。
あの子の姿が見えました。小さくて無邪気なあの子がどんどん進もうとしているので大声で引き留めたら、あの子は進むのをやめてよちよちとこっちに向かおうとしてくれました。
それも危ないからと、そこで待っているように声をかけました。視界の端にちらつく白が鬱陶しく感じました。
もう少しであの子に手が届くというところで、足元の板が嫌な音を立てて崩れました。咄嗟に足場を吊り下げていたロープに掴まって転落は免れましたが、持っていたお守りが奈落の底へ落ちてしまいました。ロープの感触を不愉快に感じました。
お守りをなくしてしまったので次に足場が崩れれば私はもう助かりませんが、あの子はまだお守りを持っていますから、あの子だけはきっと帰れると思います。
あの子を抱きしめて慎重に来た道を引き返そうとすると、あの子は「あそこ行きたい」と反対方向を指さしました。
見れば崖の一部に白い布が見えました。それがカーテンであることにはすぐに気付きました。
すぐ近くだからと、引き寄せられるようにそれへ近付きました。
カーテンは真っ白でシミーつなく、向こうには人の気配がありました。
カーテンをめくると、そこはバスルームでした。壁も浴槽も全てが真っ白で眩しくて、そこに白い服を着た女の人がいました。
その人は落ち窪んだ目をしていました。口からは血が垂れて乾いた跡があります。その人は私にそっくりでしたが、私より背が高く感じました。それもそのはずです。
その人の首にはロープが掛かり、足は床から1mほど浮いていました。
「これは」と思いましたがその先の言葉は出てきませんでした。
私はこれを見て何と思ったんでしょうか。
あの子は私の方を見ることもなく、ただその女の人を見つめながら穏やかな声で「ぼく、ここで生まれたんだね」と言いました。
夢の日記 もわいぬ @mowainu
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