第一話 親はいつでも怒ると怖い
冬の寒さを二度ほど乗り越え、光一は五歳になった。順調に背は伸びているはずだが、今だにルビエラには抱っこされるし、村の大人たちにも「可愛い」と言われ頭を撫でられる。
「おーい、光一! こっちー!」
タカラベ村を見下ろすテルスズ山の麓にある広場で、1人の少年が手を振り、光一を呼ぶ。
彼の名前は「ラティエル」、光一よりも年上の七歳の兄貴分。村の子供らを束ねるガキ大将だが、面倒見が良く、光一にとっても親友だ。
「ほら、急ぐと転けるわよ」
光一に駆け寄り、手を繋ぐのはラティエルと同い年の少女「サユリ」。光一を弟のように扱う姐御肌であり、時折、暴走しがちなラティエルのストッパー役でもある。
サユリの隣には光一と同い年の少女「コマユリ」と言い、サユリの妹だ。光一と同じくのんびりとした性格であり、サユリやラティエルがいなかったら家の中で日向ぼっこをしていることが多い。
「おはよう、光一」
「おはよ、コマちゃん」
「よーし、何して遊ぶ?」
のほほんと挨拶を交わす光一とコマユリの間にラティエルが割って入る。嫉妬ではなく、この二人に会話をさせたら話が進まず、日が暮れかねないからだ。
「日向ぼっこ」(コマユリ)
「アリの観察」(光一)
『却下!』(ラティエル&サユリ)
案の定と言うべき二人の反応に、ラティエルとサユリは溜息を吐く。のほほんとした性格は良いけれど、外で遊ぶには向かないかもしれない。
「山の中でも探検するか?」
「ダメよ。大人にも言われてるでしょ」
「ちょっとくらい大丈夫だって」
「光一とコマユリに何かあったらどうするの!」
「ぬうう、分かったよ……」
さて、どうするかとラティエルが考えていると、山の茂みからガサガサと音がする。
光一ら四人が注視していると、そこから悪臭が漂ってくる。ペチペチという足音と共に、姿を現したのはナキウの幼体だ。春になり、ナキウは繁殖期を迎え、その数を爆発的に増やしている。毎回駆除しているが、村人の行動範囲が狭まる冬の間に外からナキウが入り込んでくる。
茂みから出てきた幼体は八匹、後ろからは成体も姿を現した。幼体は初めて見た光一たちを興味深げに見て、「プユプユ」と言いながら歩み寄ってくる。後ろの成体は、その光景を微笑ましく見守っている。幼体らの良き友人になるとでも思っているのか。
「げ、ナキウだ」
「やだ、いつ見ても気持ち悪い」
「お姉ちゃん、臭いよ」
「わ、こっち来てる」
四人がそれぞれの反応をしていることにも気付かず、幼体たちは手を伸ばしてくる。
「ピキー、ピキピキ」
「プユ? プユプユ」
「ピコピコ、ピコ!」
「プミュ、プミュミュ」
ナキウにしか伝わらない言葉を言いながら、幼体が四人に近付くと、ラティエルと光一が拾い上げた石を投げつける。サユリとコマユリは村の大人たちを呼びに行っている。
ラティエルと光一が投げた石は幼体に命中する。光一が投げた石は口に当たり、口の端から血が流れ出る。ラティエルが投げた石は光一よりも威力があったようで、幼体の目玉に刺さり、血が噴き出す。
「ピキョォォォォォォォォォォォォォ!」
「ピィィィィィィィィィィィィィィィ!」
思わぬ攻撃に泣き叫ぶ二匹の幼体。
「ピ、ピミョォォォォ……」
「ピャァァァァァァァ……」
「プミュゥゥゥゥゥゥ……」
他の幼体たちの足は止まり、泣き叫ぶ幼体の周りに集まる。
「ビキィィィィィィィィィィ!」
幼体への攻撃に怒りを露わにし、成体が怒声を上げながらラティエルと光一に詰め寄る。が、その速度は光一が走るよりも遥かに遅く、歩いているのか走っているのか分からない。
向かってくる成体に構うことなく、ラティエルと光一は石を投げ続ける。
「ピッ! ピキィィィィ!」
「ピコォォォォォォ!」
「ポコォォォォォォ!」
「プキュゥゥゥゥゥゥゥ!」
次々と体に当たる石によって、身体中に傷が刻み込まれる。幼体は泣き叫び、成体に助けを求める。
「ブゴォォォォォォォォォォォ!」
成体は怒声を上げて威嚇するが、ラティエルも光一にも通じない。ナキウにしてみれば威嚇であっても、迫力も何も無く、ただ煩いだけだ。
どんなに声を上げても意味が無いことに苛立った成体は、幼体を背中に隠して庇いながら、負けじと石を投げ返した。
狙ったのか、偶然なのか、投げた石は光一の額に当たった。コンと軽く当たった。
はっきり言って、痛くも痒くもない。
当の本人も額を撫でて、当たったかどうかも分かっていない。
しかし、弟分の光一に石を投げられ、ラティエルは怒りを表す。
「テメェ! 何しやがんだ!」
そう言って駆け出すラティエルを、更に早い速度で追い越した人物が現れた。
光一の母親であるルビエラだ。
サユリとコマユリから「ナキウが出てきた」と報告を受け、いの一番に駆け出したのがルビエラ。
そんなルビエラの目の前で光一の額に「ナキウが投げた石が当たった」ため、ルビエラの頭にはすぐに血が上った。
ラティエルをあっさりと追い越し、成体に向かって飛び蹴りを加える。
「ブギュッ!」
成体はくの字に体を折って吹っ飛び、後ろの木の幹に衝突した。その衝撃によって成体の体は破裂し、辺り一面に成体の血液や体液、内臓を撒き散らして死んだ。
「テメェら、誰の息子に手ぇ出したのか分かってんのか!?」
怯えて腰を抜かしている幼体らに向かって、ルビエラが怒りのままに威嚇する。それは、成体がしていたものとは異なり、しっかりと相手を怯ませることに成功している。
そんなルビエラの元に、光一は怯えることなく歩み寄る。
「お母さん、僕は大丈夫だよ」
「光一! ケガは!? してない!? 大丈夫!?」
「うん。当たったかどうかも分からないよ」
光一が怪我をしていないか確認しているルビエラに、光一は笑みを浮かべて応える。
そんな光一の裾を引っ張る幼体。光一は振り払うが、幼体は何度も光一の服を引っ張る。
「ピ、ピコ……ピコォ……」
「もう! 何だよ!」
のんびりとした性格の光一でも、ここまでしつこくナキウに絡まれると苛立つ。
そんな光一よりも激しく怒るのはルビエラ。咄嗟だからか、周囲に強い殺気を放つ。
「手ぇ離せ! 汚え手で触んじゃねぇ!」
裏拳で幼体を殴り飛ばすルビエラ。
そのルビエラの殺気に当てられた光一の脳裏に、何かしらの記憶が呼び起こされる。
(え、なに? これ……。……僕は……暗殺者……昔……? ……ずっと昔に暗殺者だった……ような気がする……?)
ナイフを振り回し、相対する相手を斬り刻む映像が次々と浮かぶが、それが何なのか分からない。奥底から、更に何かが浮かんできそうだ。
しかし、それよりも早く、ルビエラが光一に呼び掛ける。
「ごめん、光一! つい咄嗟に! 大丈夫?」
「え? うん、大丈夫だよ」
「そう、良かった。ナキウの退治が始まるから、別の広場に行こうか」
「うん!」
ルビエラと手を繋ぎ、海側にある広場へ向かう。
「ほら、ラティエル君も行こう。いつも光一と遊んでくれてありがとうね」
「へへ、友達だし、当たり前だよ」
ルビエラにお礼を言われ、ラティエルは照れながらも一緒に歩き出す。
ナキウ退治にやってきた村の男衆に体や頭を潰され泣き叫ぶ幼体らの泣き声を背中で聞きながら、光一とラティエルはその場を去った。
ルビエラの殺気を浴びて湧き上がってきた謎の記憶が引っ掛かる光一だったが、先に広場にいたサユリとコマユリに呼ばれ、考えるのは後回しにした。
「せーの、いち!」
単純なゲームで盛り上がり、夕暮れまで遊んだ。
転生風聞録 自由気ままな人生が望みです @guda_guda-lifu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転生風聞録 自由気ままな人生が望みですの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます