転生風聞録 自由気ままな人生が望みです

@guda_guda-lifu

序章 朗らかな幼き記憶

 麗らかな昼下がり。寒さ厳しい冬を越え、山頂から雪解け水が河に流れ込む頃、母と子が一緒に散歩に出る。

 まだ、上着は必要な気温だが、柔らかな日差しが心地よい。

 母は幼い子供に歩幅を合わせ、のんびりと歩く。目に映る全てを興味深げに眺め、とりあえず手を伸ばす子供を微笑ましく見守る。

 山の緩やかな坂道を登っていると、道の端に冬の寒さを乗り越えた花が咲いていた。子供はその花に興味を持ち、母の手を引き、花へと駆け寄る。


「お花さん、綺麗だね」


 母の言葉に、子供は笑顔を浮かべる。

 子供が花に手を伸ばし、花弁を撫でようとした時、不意に鼻につく異臭が漂ってきた。腐った卵のような臭い。風に乗って流れてくる悪臭に、親子は眉を顰める。

 風上に視線を移した母の目の前にいたのは、母の機嫌を損ねるには十分な生物だった。楕円形の体型をし、目立つ大きな目玉は輪郭からはみ出している。楕円形から生えるように手足が伸び、足は人間の足首くらいしか無い程に短い。タラコ唇をしている。大きい方は緑色、一緒にいる複数の小さいのは青味が強い緑色の体色をしている。


「チッ。凍死でもしていれば良かったものを」


 子供に聞こえない小声で呟く母親。

 その母親の不機嫌さを感じ取れないその謎生物は、笑顔を浮かべて、歩み寄ってくる。足が短い為か、その速度は非常に遅い。

 小さい個体を引き連れている大きな個体は、子供を連れている母親にシンパシーでも感じたのか、親しげに、


「フゴフゴ、フゴォ、ビコ」


 と、挨拶のような謎の言葉を吐きつつ、会釈のように頭を下げた。


「ピコ、ピコピコ!」

「プキプキ、プキ!」

「ポコポコポコォ!」


 引き連れている小さい個体の中から数匹が駆け出し(非常に遅い)、子供が手を伸ばしていた花を摘み取った。


「あ」


 残念そうに声を出す子供に目もくれず、小さい個体は花を口に入れて、満足そうに咀嚼する。

 目の前で気に入った花を奪われ、子供は心からムカムカとした感情が湧き上がる。

 その感情をぶつけるように、謎生物を突き飛ばした。


「ピキィィィィ!」


 両手で思いっきり突き飛ばしたと言え、まだ三歳児の腕力である。大した技術などあるわけもなく、単なる感情の発露でしかない。

 それにも関わらず、謎生物は数回後ろへ転がり、回転が止まると、目端に涙を浮かべ、


「ピコォォォォォォ!」


 と、非常に耳障りな声で泣き始めた。聴くに耐えず、ムカつきは増すばかり。


「フゴッ! フゴフゴ!」


 泣き声を聞きつけた大きな個体は、目尻を吊り上げて向かってくる。

 しかし、それよりも遥かに早く駆けつけた母親が素早く子供を抱き上げ、


「光一! ダメでしょ、こんなばっちい物を触っちゃ! ほら、キレイキレイしようね!」


 そう言いながら、母親は子供「光一」の手をハンカチで拭き始める。

 その間も小さな個体は泣き続けるし、大きな個体は怒っているような声を出しながら向かって来ている。

 母親は光一をギュッと抱き締めつつ、耳障りな泣き声を上げ続ける小さな個体に歩み寄ると、その横っ面を思いっきり蹴り飛ばした。


「ピッ!」


 短い悲鳴を上げ、数メートル飛ばされた小さな個体は、頭が一八〇度回った状態であり、即死している。


「ビキィ!?」


 大きな個体は慌てて小さな個体へと向きを変え、他の小さな個体もそちらへと駆け寄る。


「ビコ! ビコ! プユ? プユユ?」


 何度も呼び掛け、何度も体を揺するが、首の骨が捩じ切れている小さい個体が応えるわけが無い。

 物言わぬ死体に、大きな個体は大粒の涙を流しながら、


「ビコォォォォォォォォォ!」


 と、やはり非常に耳障りな泣き声を上げる。

 その声に背を向け、母親は村へ帰ろうとすると、背後から大きな個体の怒声が響く。


「フゴォォォォォォォ!」


 しかし、母親はその事を意に介さず、村へと歩き続ける。

 その母親の進行方向から、年若い男たちがやってきた。


「あ、ルビエラさん!」

「光一くんのお散歩は終わりです?」

「まだ肌寒いですしね」


 親しげに話しかけてくる彼らに、母親「ルビエラ」はがっかりとした表情と共に、


「今日はね。ナキウが出たからさ。この子も不機嫌になっちゃったし」


 そう言いながら彼らに見せる光一の表情は、眉を顰めた不機嫌さを如実に物語っている。


「ありゃ。冬の間に山に住み着きやがったな」

「残念だったね、光一くん。せっかくのお散歩だったのに」

「よし! お兄さんたちに任せときな! あんなのはすぐにやっつけるぞ!」


 そう言いながら光一の頬や頭を優しく撫でる。

 普段から構ってもらって懐いているのか、光一は笑顔を浮かべる。

 ルビエラとも笑顔で会釈を交わし、ルビエラと光一は村へ。男たちはルビエラを追う謎生物「ナキウ」へと向かっていく。

 光一がグッと背を伸ばし、ルビエラの肩越しに後ろを見ると、男たちはナキウをボコボコに殴り、蹴り飛ばしている最中だった。

 すぐに村に帰り着き、光一はすぐに近所の友人たちと遊びに行った。


 これが、光一の一番幼い記憶である。

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