第5話

 翌日、日曜日。

 昨日は、近ちゃんの言う通りさっさと寝た……かったが結局眠れたのは日付が変わった後。

 約束の時間に外に出ると、ちょうど店の駐車場に一台の車が止まった。

 車から出てきたのはもちろん近ちゃんで、いつもと変りない姿である。

 あたしは、所々にフリルが施された基調のワンピースを着ている。


「おはよう。天気が良くてドライブ日和だな」

「ああ。おはよう。うん。楽しみだぞ」


 このような世間話を交わしていると店の扉から親父が姿を見せた。


「おはよう。優ちゃん」

「なんで出てくるんだよ、早く戻れって」

「別にいいじゃん。バカ娘がお世話になるんだから挨拶しておかないと」

「娘さん、お借りします、なんてね」

「親父に合わせんでいいから」


 親父はあたしの背中を押して近ちゃんの方に押した。

 勢い余って近ちゃんの胸に飛びついて、すぐ上に顔がある。

 近い。

 きっと今あたしの顔はほんのり紅くなっているのだろう。

 そんなことお構いなしで二人はべちゃくちゃ話をしている。


「どうぞ連れて行って。優ちゃん。今日返さなくてもいいよ」

「娘さんが帰りたくないって駄々をこねたら帰れないかもしれません」


 近ちゃんと親父は冗談なのか本音なのか分からないが笑い合っている。

 あたしは近ちゃんから離れると、深呼吸をして落ち着いた。


「そろそろ行くか。大将、行ってきますね」

「薫のことよろしくね~」


 そう言って親父は店の中に入って行った。


「曽場、行くぞ」

「あ、ああ」


 近ちゃんは助手席の扉を開けて乗るように促す。

 初めて乗る近ちゃんの車の、それも助手席にドキドキしながら乗り込む。

 軽く靴の土を払って深く座ると、彼は静かに扉を閉め、運転席へと座った。


「別に気にしなくてもいいぞ」

「えっ? 何を?」

「靴の泥払ったろ」

「まぁ、うん。初めて乗るからな。初回ぐらいはちゃんとな」

「俺もだぞ。扉開けるなんてお姫様待遇は次回はないぞ」

「なんだと、いつでもあたしはお姫様がいいんだぞ」

「……シートベルトしたか?」

「なんで無視すんだよ」


 お姫様なんて似合わないのは分かっているが、近ちゃんのお姫様にふさわしい人間でありたいのは本当だ。

 そして、本当に近藤優のお姫様になれれば、嬉しいことこの上ない。

 近ちゃんは自分のシートベルトを締めて、ペットボトルの水を一口飲んだ。


「さて、お姫さま今日はどこに行きたいですか?」

「う~ん、とりあえず……遠くに行きたい」

「……分かった。遠くに行くか」


 近ちゃんとならどこに行っても楽しい。

 遊園地、動物園、カラオケ、行きたいこと、やりたいことは沢山あるけど、でも、今は静かに二人きりになりたい。

 運転中の近ちゃんとは天気の話や仕事の話をしたりして、楽しく過ごした。

 ときにお互い黙ってしまうこともあるけど、苦痛ではなくむしろ心地よい。

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