第4話

「映画、始まるな。寝るなよ、近ちゃん」

「そっちこそ」


 二人隣り合って映画館の座席に座っている。

 館内が暗転し、目の前の大きなスクリーンだけが光る。

 横をみると集中して映画を見ている近ちゃんがいる。

 本当に二人で出掛けていることを自覚する。

 あたしは約束通りポップコーンを買って、抱えながら食べている。

 横からたまに近ちゃんの手が伸びてくる。

 正直、映画どころじゃない。

 あたしは彼の手がこちらに来たタイミングで、自分の手を伸ばすと、ポップコーン上で手が重なった。

 ただ彼と触れ合いたいがためにやったが、自分でやって恥ずかしくなる。

 しかも、輪を掛けるようにドキドキと鼓動が速くなる。

 なぜなら、彼はあたしの耳元まで近づいて小声で言った。


「ごめん」

「あ、うん」


 上映中だからこれ以上の会話はなかったが、彼の息を耳元で感じ、体中熱くなった。

 自分がこんなにも恋愛に初心であるとは思っていなかった。

 あいつともっと話したい、あいつにもっと触れたい、あいつの隣にいたい。

 映画にはまったく集中することなく、そんなことを考えていた。


 ◇◇◇


「……あれ?」


 気が付いた時には館内が明るくなっていた。

 あたしは近ちゃんの肩に寄りかかって眠っていた。


「よ。終わったぞ」

「そ、そうか……」

「昨日遅かったのか?」

「あ、ああ。ちょっと仕込みがな」

「毎日お疲れさんだな。出よう」


 仕込みで遅くなったわけではなく、ただ今日のことが楽しみで眠れなかっただけだ。

 ぐっすり眠っていたらしく近ちゃんの肩の感触は覚えていない。

 映画館を出ると夜になり、冷たい風が吹いていた。

 あたしたちは駅まで歩き始めた。


「大丈夫か?」

「ああ。ごめんな、付き合わせて……近ちゃんも忙しいのに」

「気にすんな。誘われなかったらグータラしているだけだから」

「……近ちゃん、ありがとう」


 近ちゃんも仕事で疲れているだろうに、あたしに一日くれたのに、申し訳なさがこみ上げる。

 自然と下を向いていた。

 ただ下は舗装された道が見えるだった。


「……ああ、曽場。上を向いて見ろ。天気がいいなぁ。明日も晴れそうだ」

「何の話だよ。暗くてよく分からねぇよ。明日? 知らんよ」

「曽場、明日は定休日だったか?」

「ああ、明日は休みだ」

「よし、明日、朝10時、曽場の家に集合な。暇だろ?」


 あたしは何を言っているかよくわからなかった。


「明日、曽場の休み、俺が貰うわ。今日はさっさと寝て明日に備えろ。明日、今日の続きをするぞ。遊び足りん」


 きっと寝てしまって落胆しているあたしを元気付けているのだろう。

 それがあたしには嬉しいことで、自然と笑みがこぼれる。


「近ちゃん、それはあたしをデートに誘っているのか? 二日連続って近ちゃんも遊び人だな」

「嫌なら断ってもいい。俺は一人でドライブするだけ」

「ど、ドライブ? あ、あたしはどこに連れて行かれるんだ?」

「決めてない。どっかうまいもん食いに行くか? それとも何か景色を見に行くか?」

「……近ちゃんと一緒ならどこでもいい」

「でも、曽場を車に乗せたら寝るか?」

「おい。ケンカ売ってんのか?」

「そんだけ元気なら、大丈夫だな。また明日、よろしくな」


 近ちゃんはあたしの肩をポンと手を置き、歩き始めた。

 彼の顔を見ると優しい人間だとつくづく実感する。

 あたしはきっと今日も眠れないかもしれない。

 その後は、あたしの家まで送ってくれた。

 近ちゃんの背中が大きく見えた。

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