直感の未来予知と奇跡の的中
「……予言者カイトよ。期待しているぞ」
聖都の中枢、円卓を囲む軍議の間。
重苦しい沈黙の中、グランが地図を指し示した。この国はかつての「日本」を彷彿とさせる地形で、現在は『東の帝国』『西の連合』『中央の聖都』という、歪な三国鼎立の状態にある。
「現在、我が聖都は邪神の灰に最も近い。だが、隣国どもは我らが疲弊した隙を突き、この肥沃な中央を奪おうと画策している。……さて、どちらが、いつ、どこから攻めてくる?」
(知るかよ!! ゲームの序盤でそんな国家間の外交設定なんて、フレーバーテキスト程度にしか出てこなかっただろ!)
カイトは必死に記憶の引き出しをひっくり返す。
原作の『ラスト・レクイエム』は、あくまで個人の勇者一行が魔王を倒すRPGだ。戦争が本格化するのは、カズトが成長した「第二部」からだったはず。だが、今はその「第一部」すら始まったばかりなのだ。
冷や汗が背中を伝う。周囲の将軍たちの視線は冷ややかで、一言でも間違えれば「無能」として首を跳ねられかねない。
(……待てよ。地形が日本と同じなら、歴史の『三国志』や『戦国時代』のセオリーが使えるんじゃないか?)
カイトは一か八か、机の上の地図をじっと見つめ、さも深淵を見通すかのような低い声で口を開いた。
「……グラン閣下。未来は一本の道ではありません。ですが、『山を越える風』と『海を渡る火』が見えます」
「ほう? 詳しく聞こう」
「西の連合は地形的に山脈に守られているが、それゆえに食糧難に喘いでいる。彼らが狙うのは、最短距離の平原ではなく、補給路を確保するための『北の港』……新潟付近の要衝だ。これを『山を越える風』と呼ぶ」
カイトはハッタリをかます。日本の地理知識から、攻めやすそうな場所を適当に挙げただけだ。
「そして東の帝国。彼らはプライドが高い。正面からぶつかるフリをして、実は『黒潮』の流れを利用し、房総半島から聖都の背後を突く準備を始めている……。これが『海を渡る火』だ」
「……バカな! 東の海軍はまだ再編中のはずだぞ!」
将軍の一人が声を荒らげるが、グランはそれを手で制した。
「続けろ」
「閣下、未来は常に動いている。今すぐ偵察を出せば、帝国が秘密裏に建造している戦艦の『影』が見つかるはずだ。信じるか信じないかは……あなた次第ですが」
(頼む、適当に言ったんだから本当に作っててくれ!)
数日後。
軍議の間を激震が走った。
「ほ、報告します! 西の連合が北部に集結を開始! さらに東の海域にて、帝国の隠密艦隊を発見しました!!」
「……何だと!?」
「予言が……寸分違わず的中したというのか!?」
(本当にいたのかよ!?)
カイトは自分の「予言的中率」に、誰よりも驚愕していた。おそらく、ゲームの裏設定でそんなイベントがあったのか、あるいはカイトの言葉を恐れた運命が無理やり現実をねじ曲げたのか。
「素晴らしい……素晴らしいぞ、カイト!」
グランが席を立ち、カイトの肩を強く掴んだ。その瞳には、もはや隠しきれない狂気的な執着が宿っている。
「貴公は『知恵』ではない。文字通り、神の眼を持っている。……もはや貴公を、一介の能力者として扱うわけにはいかんな」
【システム・メッセージ】
――称号『国家の軍師』を獲得しました。
――グランの信頼度が『狂信』に到達しました。
(やめろ……。これじゃあ俺が戦争を引き起こした張本人みたいじゃないか!!)
さらに、軍議の間の外では、カナとヒナが「カイトさんのための勝利の宴(あるいは次の戦場)」を巡って、恐ろしい笑顔で競い合っていた。
一般人カイトの生存戦略は、ついに一国の運命を動かす「最重要軍機」へと成り上がってしまった。
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