死のパレードとグランの能力テスト

「聖都への招待、謹んでお受けしますよ。……閣下」


カイトは震える膝を必死に抑え、不敵な笑みを張り付かせた。断ればその場で消される。ならば、この「裏ボス」の懐に飛び込み、首の皮一枚で生き残る道を探るしかない。


だが、聖都への道のりは、文字通りの「死のパレード」だった。


「カイトさん、見てください! 街の人たちが……」


カナが怯えたように俺の袖を引く。聖都へと続く街道には、グランの息がかかった騎士たちが整列し、その背後には異様な光景が広がっていた。街道の左右には、わざわざ生け捕りにされた魔獣たちが、鎖で繋がれた状態で配置されている。


「予言者よ、貴公の力を聖都の民にも示してもらいたい」


馬上のグランが、冷酷な目でこちらを見下ろす。


「道中の魔獣はすべて解き放つ。貴公が本当に『未来』を見通す者ならば、無傷で聖都の門をくぐってみせろ。もし失敗すれば……その程度の価値だったということだ」


(テストなんて生ぬるいもんじゃねえ、ただの処刑場(キルゾーン)じゃねーか!!)


カイトは内心で絶叫した。

グランの合図と共に、最初の鎖が外される。解き放たれたのは、音もなく影を移動する凶悪な魔獣『シャドウ・ストーカー』。一般人の動体視力では捉えることすら不可能な強敵だ。


「ヒナ、左斜め後方! 影が伸びた瞬間に地面を突け!」


「えっ、あ、はいっ!」


カイトはゲームの「出現パターン」の記憶を総動員して叫ぶ。ヒナが言われた通りに剣を突き立てると、そこには実体化した魔獣の心臓があった。


「カナ! 怖がるな、右の木の上に薬品を投げろ! 火は俺が放つ!」


「わ、わかりましたっ、えいっ!」


カナが投げた瓶が割れた瞬間、カイトがライター代わりの魔導具で引火させる。爆炎が樹上の伏兵を焼き払う。


パレードが進むにつれ、魔獣のランクは上がり、攻撃は苛烈を極めていく。


カイトは冷や汗で全身を濡らしながら、カンニングペーパー(未来知識)を読み上げるように指示を出し続けた。


「……信じられない。あんた、本当に全部見えてるのね」


返り血を浴びたヒナが、畏怖の念を込めてカイトを見る。


だが、グランの本当の狙いは「魔獣」ではなかった。


パレードの終着点、聖都の正門前。そこで待ち構えていたのは、グランの直属部隊による「広域殲滅魔導」の構えだった。


「最後だ、予言者。この魔法の『穴』を言い当ててみろ」


無数の魔法陣が展開され、逃げ場のない光の雨が降り注ごうとする。


カイトの知識にはない、この世界の「今のグラン」が放つオリジナル魔法。


(終わった。パターンが読めない……!)


カイトが死を覚悟したその時。


「……私のカイトさんに、変なキラキラを向けないで」


カナの瞳が再び、あのドロリとした漆黒に染まった。


彼女がカイトの前に立ち、手をそっとかざす。すると、聖都の騎士たちが展開していた魔法陣が、まるで見えない巨大な顎に食いちぎられるように、次々と黒い霧に消えていった。


「なっ……!? 魔法が、霧散した……?」


グランの目が初めて驚愕に大きく見開かれる。


「……あ、アハハ。団長閣下、これが彼女の……えー、『天然の加護』ですよ。ちょっと強力すぎて制御が難しいんですがね」


カイトはひきつった顔でフォローを入れる。


(それは『加護』じゃなくて『邪神の権能』だ! バレる! 絶対にヤバいヤツだってバレる!!)


「死のパレード」を完走した一行。


聖都の門が開く。だが、そこは救いの地ではなく、カイトにとっての新たな地獄――グランという怪物と、ヤンデレ魔王化しつつあるカナ、そして狂信的な聖女ヒナに囲まれた、針の筵(むしろ)の始まりだった。


「よくやった、カイト。……貴公を、私のすぐ側に置くことに決めたぞ」


グランのその言葉に、カイトは「終わった……」と心の中で遺書を書き始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る