夜の地獄
午後になり空はドス黒い雲に覆われる。
風が家を揺らし、カタカタと音を立てる。
時計の時を刻むカチカチという音とその風の音が共鳴し、さらに私の不安を煽る。
山の向こうへと灯りは落ち、森は黒く閉ざされ死の景色となる。
雪かきが大変という意味での地獄であれば、この吹雪の森は生命的な地獄だ。
ここに一歩踏み出せばたちまち目の前は真っ暗になるだろう。
そんな中でも陽雪はまだ帰ってきやしない。
不安は既に動悸となって現れ始めている。
一応あの子も懐中電灯は持っているし、ここまでの道筋には電柱とこういう時の為の避難小屋もある。
だけれど、電柱を辿っていればもうとっくにここに着いて「お腹すいた」とか言いながら椅子に座り、テレビでも見ているはずだ。
それに避難小屋にいるのだとすれば電話があるから、ここに電話が鳴るはず、なのに電話は鳴らない。
助けに行こうにもここで出れば間違いなくミイラ取りがミイラだ。
文字通りにミイラになってしまう。
ただ私は悶々と静かに座って、無事を祈る事しかできなかった。
ふと、ピ!ピ!ピ!と甲高い音が聞こえる。
きっとユキウサギだろう、そう思って窓の外を眺めると、その小さなユキウサギが十の赤い目を輝かせてこちらを見ていた。
私はギョッとしてすぐに視線を横にずらす。
けれどなぜユキウサギがこの家にこんなにも集まっているのか、それが気になった私は窓の近くへと寄って行く。
そこには陽雪が白く冷たい絨毯の上にうつ伏せになって倒れ、その周りにユキウサギが鎮座していた。
それはまるでユキウサギの儀式のようなそんな雰囲気を感じるが、そんな事などすぐにどうでも良くなる。
なんでたって陽雪が倒れているのだ。
私はすぐに陽雪を抱き上げ、脈と息を確認する。
私の動悸はすぐにホッと落ち着いた。
...生きている。
ただ、すごい熱だ。多分38度か9度くらいのすごい熱。
私は陽雪の濡れた服を脱がせてパジャマに着替えさせて、すぐにベッドに横にさせた。
体温計を探しに元のリビングに帰ってくればユキウサギは既に暗闇の中へと静かに消えていた。
私はその日、スノーモービルを購入したのだった。
ユキウザキ @tamanochibibi
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