ユキウザキ

@tamanochibibi

朝の雪林

窓を開ければ、全てが白く染め上げられたような景色が広がっていた。

駐車場も高く生える針葉樹の枝先も全て白くフワフワとした物で積み上げられている。

ジリリリという目覚ましの音さえ、耳に入らない。

それほどまでに、美しく煌びやかな、まるで天国のような風景だった。

ただこの景色を美しい煌びやかな景色と評せるのは私のような太平洋沿いの温室でぬくぬく育った者だけだ。

結局育った場所によってこの景色は地獄にも天国にも見える。

物事には二面性があるということががよくわかるばかりだ。


これを天国と言った私であるがこれを掻くとなればこの地で育った者と同様に地獄の景色へと、あっという間に様変わりする。

それでもこの景色を天国と言えるのは、私がここに来て日が浅いからだろう。

事実、私の義妹は幼いのにも関わらず全く雪に対して楽しそうな目を見せた事はない。

雪が降り積もれば死んだような目をしながら手伝えとスコップを渡すだけだ。

そんな義妹、陽雪はまだ隣でスピーっと可愛らしい寝顔を晒している。


この家は、森の中にぽつんと建つコテージのような家だ。

鼻を使えば木の匂いがして来るようなそんな家。

そこに陽雪と私、二人だけで住んでいる。

部屋は2つか3つあるが、様々な事情で1つの部屋だけを使って暮らしている。

私は木の扉をギィィと音を出さないように慎重に開ける。

もしここで起こしたらフシャーと飛び起きて頭を掻き毟られるだろう。

あいにく、扉の機嫌は良かったようで無事にリビングへと這い出ることができた。


暖かいコーヒーを飲みながらふと外を眺める。

ユキウサギがこちらをジッとみていた。

こちらが手を振るとひょいと飛んでどこか白い中へと溶けて消えた。


こうものんびりしている場合でもない。

陽雪の為に朝ごはんを作らなければ。

とは言っても米は昨日の残りで十分だしおかずは漬物を皿に上げるだけ。

だから作るのは汁物のオハウ。

まぁ鮭の入った昆布汁みたいな奴でこの辺りの郷土料理だ。

小さな鍋に水と昆布を入れてポコポコと沸騰するのを待つ。

沸騰したら、大根とか人参とか鮭を入れて、煮込めばあっという間に出来上がりだ。

お茶碗にそれを注ぎ入れ余りは冷蔵庫に投げ込む。


朝ごはんを準備する物音が陽雪とっての目覚ましみたいだ。

今日もいつも通り寝ぼけた顔をして目を擦りながら部屋から出てくる。


「顔洗って、早く着替えて食べよ」


私の投げかけに陽雪はコクリと目を閉じながら、うなづいて洗面台へとおぼつかない歩みで進んでいった。

バシャバシャと顔を洗うのを、私はボーッと見ていた。


「何見てるの?美咲ねぇ」


「ん〜顔洗ってるなぁって」


「何それ」


陽雪はにっこりと笑いながら私の向かいの席に腰掛ける。

いただきます!と言って暖かいご飯をいただく。

ハムハムと美味しそうな顔をする陽雪。

木々の隙間から漏れる朝日が陽雪の顔を照らす。


ご飯を食べたら陽雪の登校の時間だ。

ボサボサの寝癖だった髪を綺麗にポニーテールに整えて、スキーウェアを身に付け、ランドセルをソリに置く。

ここは深い雪に埋もれた北の島の森の中。

そんな森の中なんて除雪されているはずも無く、陽雪は毎日ソリで滑って登校している。

特に陽雪はなんとも思っていないようだけれど、本土はおろか北海道でもそうそう見ないだろう通学方法に私は最初、目を点にした。


「行ってくるね」


「気をつけて、いってらっしゃい」


陽雪は、赤いソリをゆっくりと滑らせ始める。

風が地面を撫でていくみたいな音が、森に細く伸びた。

やがてその姿は、白い木々の中へと溶けて消えていった。

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