月刊「怪奇」 2026年6月号 記事草稿『AIおばあちゃんは実在した!? 定食屋を営む彼女の正体やいかに!』(文:御幣島)
最近では、世間の娯楽はすっかり動画系のコンテンツで埋めつくされている。
ただただ真偽のわからない動画を受動的に浴びるのみ。その裏に何があるのか、人は考えもしなくなってしまっている。なんと嘆かわしいことだ。
そんな中、この雑誌を手にとってくれている読者諸兄のなんと聡明なことか。素晴らしい。ここに掲載される記事こそ、見識を高めるきっかけとなり、そして世界の裏側を垣間見ることを可能とするのである。
さて、今回は世間に
諸君らは『AIおばあちゃん』なるものを知っているだろうか。
生成AIによってつくられた、老婆が非常識な行動をする動画。動画系SNSにたびたび投稿されるそれに出演する老婆のことを総称してそそのように呼ばれている。
彼女はAIによって生成された架空の人物。当然、現実にそのような人間が存在するはずもない。
……だがなんと、その老婆と酷似している人間がいたのだ。
情報を入手した取材班は、現地へと取材に向かった。場所はA県にある定食屋『■■■■』。
閑静な住宅街の片隅に
中に入ってみると、我々は驚愕した。情報の通り、ひとりで経営しているという店主が『AIおばあちゃん』と瓜二つだったのだ。
何らかのトリックか? もしくはオカルト的な何かなのか?
だが、店主はいたって親切だった。我々の取材にも快く応じてくれた。
――世間で話題の生成AI動画に出てくる人物に酷似している。まさか本人、あるいはモデルなのか?
単刀直入に、我々は尋ねることにした。もちろん、動画を見せながら。
『そっくりで驚いた。だが自分は昔からこの顔で、ずっとここで定食屋を営んでいる。もし動画出演のオファーが来ていたら、その出演料で店の修繕を行っていただろう』
――最近、客足が増えているとのことだが、こういうことで話題になるのは嫌ではないのだろうか?
『話題になることはうれしい。これを機に、もっとたくさんの人に知ってもらえたらと思う』
方言混じりのイントネーションでそう答えると、店主は笑った。さながら動画で見たAIおばあちゃんとそっくりな笑顔で。
しかし悲しいかな、そこで時間切れとなってしまい、それ以上の取材を行うことは叶わなかった。周辺の方にインタビューも行ったが、真相に近づけるような情報を得ることはできなかった。
果たして店主の老婆は何者なのか? その正体は?
取材班が類推するに、無関係ということはないだろう。必ず、何かしらの関わりを持っているのではないだろうか。
たとえば、生成AI動画という話題に相乗りするため、店主が成整形手術を行った?
あるいは、実は店主は最先端の技術によってつくられたアンドロイドだった?
はたまた、店主が知らない間にモデルにされていた? もしそうであれば、勝手にAIに学習されてしまうリスクというものを、我々は有しているのだろうか。
とはいえ、これはまだ推測の段階に過ぎない。この不可解かつ不明確な事実の真相に、我々はたどり着かねばならない。
引き続き、調査を進めたいと思う。続報を待たれよ!
余談だが、定食屋で食した『うどんセット』は絶品であった。読者諸兄も訪れることがあれば、ぜひご賞味いただきたい。なお、うどんの方はとんでもなく量が多いので注意が必要である。
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