運ゲー占星術師、命懸けの「上振れ」確定ガチャで全てを破壊する

空向井くもり

第1話 その男、運任せにつき

 死ぬ確率は九割九分。

 普通なら、ここで走馬灯を見る。あるいは辞世の句でも詠む。

 だが俺は、ただの確率論者で、ギャンブラーで、

 なにより――運任せの占星術師タロット・オーダーだ。


 鼻孔を突くのは、焦げた肉と鉄錆の臭い。

 視界を埋め尽くすのは、殺意に満ちたオークたちの豚面。

 右、左、正面。逃げ場はない。


「グルァアアアアッ!!」


 オークの一体が、丸太のような腕を振り下ろす。手には粗雑な錆びた直剣。

 脆弱な魔法使いの肉体を破壊するには十分だ。


 回避行動? 間に合わない。

 防御魔法? 詠唱の時間がない。

 詰みだ。誰がどう見ても、俺の頭蓋骨は次の瞬間にスイカのように砕け散る。


 ――ガギィンッ!!


 不快な金属音が鼓膜を揺らす。

 俺の首を刎ね飛ばすはずだった直剣は、俺の左腰の鞘から「ひとりでに」飛び出した直剣によって弾かれていた。


「……ッ、危ねえな」


 俺の意思じゃない。

 左腰に吊るした遺物レリック、『自動迎撃の鞘』が勝手に反応しただけだ。

 基礎発動確率は 15%。アテにできる数字じゃない。

 だが、俺が積み上げた「補正値」が乗れば、それは必然へと変わる。


 だが、安堵する暇はない。

 背後から別のオークが迫る。気配でわかる。風切り音。狙いは腎臓あたりか。

 振り返る暇はない。


 ズザッ!


「っとぉ!?」


 俺の意志とは無関係に、足が勝手にたたらを踏む。まるで透明な誰かに足を引っ張られたかのように、俺の体は不様に体勢を崩し――その頭上を、死の旋風が通り過ぎていった。

 足に巻いた薄汚れた布きれ。『強制回避の脚絆』が仕事をしたらしい。

 こちらの基礎発動確率は 10%。本来なら十回に九回は死んでいる場面だが、今の俺には「当たる」確信があった。


 発動時のデメリット「強制的な姿勢崩し」のおかげで、俺は無様に尻餅をつきそうになる。回避した後のことが一切考えられていないカスの遺物レリックだ。

 だが、転倒するより早く、俺は空いた右手を天に掲げた。


 パシィッ!


 右腰に吊るしていたしょぼくれた木の杖が、吸い込まれるように掌に収まる。

 これも遺物レリック、『従順な下僕の篭手』の引き寄せ効果だ。

 六時間に一度だけ、腰に吊るしているものを手に収めてくれる。あり得ない再利用時間クールタイムの悪さを誇る品だ。


雷閃一条プレイ・サンダー!!」


 杖の先端から迸った紫電が、追撃をしようとしていたオークの顔面を焼く。

 遺物である杖に封入された簡易術式。

 通常、かさばる杖には中級以上の術式を詰めておきたいところだ。

 遺物を二つも使って牽制程度。深層に潜る冒険者が見れば大笑いすることだろう。


「ブヒィッ!?」


 感電し、わずかに動きを鈍らせるオーク。

 俺は体勢を立て直しながら、口元を歪めた。


 魔法使いは近接戦に弱い?

 囲まれたら終わり?

 常識だ。誰もがそう言う。教科書にも書いてある。


 だが、それは「運」を味方につけていない奴の言い分だ。


 俺は埃を払いながら立ち上がる。

 身体中にぶら下げた三十二個の遺物レリックが、ジャラジャラと騒がしい音を立てた。

 脚絆に杖、剣の鞘、手甲、指輪、腕輪、ネックレス、腰飾り、アンクレット……。

 端から見れば、正気を失った骨董品屋にしか見えないだろう。

 どれもこれも、くだらない効果で投げ売りされる雑魚アイテムだ。


 だが、全てにLUK上昇の秘匿効果がある。俺は膨大な検証によってそれを確かめている。

 こいつらが俺の命綱だ。


「さて……ターンは回ってきたか?」


 俺は右手を掲げる。

 そこには、俺の占星術師の発動具である天測儀スフィアが浮いている。

 星々の運行を模した真鍮の輪が、キチキチと小さな音を立てて回転を始めた。


励起せよスタンバイ


 天測儀が展開し、鮮やかな藍色の光の帯が広がる。

 その光景は、いつ見ても美しい。薄暗いダンジョンの空気を、星々の光が塗り替えていくようだ。

 さあ、運命の時間だ。


 俺の魔術領域、占星術師タロット・オーダーは、極めて不人気なジョブだ。

 なぜなら、起こる現象引くタロットが選べないから。

 火球を出したい時に水を出し、回復したい時に雷を落とす。


 わかる奴には、毎ターン一枚しか引けないデッキ構築ローグライクみたいなものだと思ってくれればいい。なんならデッキの編集もできない。どれだけ無茶なことをしているかがわかるだろう。


 わからない?

 ならトランプだっていい。ジョーカーを入れて53枚。好きなのを想像してくれ。

 一枚引こう。絵柄は想像したものか?

 外れた?

 なら腕にナイフが突き刺される。そういう感じだ。

 あんたが魔術師マジシャンならいいんだが、あいにくとこの世界の魔術師まほうつかいはイカサマができなくてね。


 タロットが引き起こす現象は、必要な詠唱句の長さや魔力の消費に比して強力だ。それは占星術が様々な神秘と強く結びついているからで、同時に術者の介入の余地が僅かであることを意味する。

 カップ――水の属性を持つ――から炎――ワンドの領分だ――は出ない。

 欲しいときに相応しい現象を提供できない魔術師には価値がない。

 だが、逆に言えば、状況に合うカードが引き寄せられる右手が光っているのなら、これほど強力なジョブもない。


 俺の扱うタロットはフルセット、大アルカナ22枚と小アルカナ56枚の78枚。正位置と逆位置、欲しい札を欲しい向きでピッタリ引ける確率は初期状態で158分の1、 0.6%だ。こんなもんに命を預けるのは、馬鹿のやることだ。


 遺物の発動にタロットの引き、完璧な運ゲーだ。下ぶれれば死ぬ。狂気の博打だ。

 俺は馬鹿で、馬鹿は死ななきゃ治らない。俺は死なないから、この馬鹿は永久に治らない。


展開せよドロー


 俺の言葉に応え、天測儀スフィアが高速回転する。

 光の粒子が集束し、一枚のカードとなって俺の指先に収まった。


 カードの絵柄を見る。

 描かれているのは、崩れ落ちる塔と、そこに落ちる雷光。

 大アルカナ『The Tower』の正位置。


「……いい引きだ」


 状況は最悪。敵は多数。

 ならば、このカードは最高の一手トップ・デックだ。

 星々は、この場の「崩壊」を望んでいるらしい。


「あばよ」


 俺はカードを天高く掲げた。

行使するプレイ


 詠唱句はほんの僅か。カードが砕け散り、天測儀から膨大な魔力が引き出され、世界に干渉する。

 俺を中心とした世界が白く染まった。


 轟音。

 そして、肉の焼ける嫌な臭いが、一層強く鼻を突く。


 数秒後。

 視界が戻ると、そこには黒焦げになったオークたちの死体が転がっていた。

 生き残っているのは、全身から煙を上げている俺だけ。

 ……いや、厳密には俺も無傷じゃない。静電気で髪の毛が爆発している。


「あー……くそ、ヘアワックス溶けたか?」


 髪を撫でつけながら、俺は足元のオークの死体を爪先でつついた。


「運も実力のうちだ。悪く思うなよ」


 オークの死骸が霧消し、一番大きなオークのいた場所から古ぼけた指輪が転がり出る。遺物レリックだ。

 効果は上に戻って鑑定屋に見てもらわなければわからないが、どうせたいしたことは無いだろう。

 それに、俺にとって重要なのは効果そのものじゃない。


 俺は迷わずそれを拾い上げ、空いている指にはめた。

 装着し、俺は自身の体の奥底にある感覚に耳を澄ませる。


 熱い血流。研ぎ澄まされた神経。

 そして何より、見えざる「運」の器の揺れに全神経を集中する。


「……はずれだ」


 俺は舌打ちし、指輪を外して雑嚢ポーチに放り込んだ。換金アイテム行きだ。


 デッキはいじれない。引くカードも選べない。

 なら、強化する手段は一つしかないだろう?

 

 俺自身が、最強の「運」を持つしかないのだ。


――――――――――――――――――――

新作です!!!


面白かった、続きが楽しみ、と思っていただけたら「♡応援する」をポチッと!


小説概要から「★」や「フォロー」をいただけると、ザラックの運が少しだけ上昇するかもしれません。よろしくお願いします!


代表作、スペース飯テロ輸送艦もぜひ。少しのSFと「おいしそうなご飯」の話です!

https://kakuyomu.jp/works/822139840903064428


Xアカウント(@sora_ha_kumori)も作りましたので興味がありましたら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る