第2話 時間切れの同類
夕方になる頃には、透も朱里も満身創痍で机に突っ伏した。
「よしよし、偉い偉い。この調子で、これからも頼むぞ」
風間は、笑顔のまま教室を出る。
二人は、ぽつんと教室に取り残された。
透の視線が壁掛け時計に向く。
秒針が合わさると、ぴったり十八時だった。
「……あ」
呆けたような声を上げる。
(女子文具展……終わった)
すぅと魂が頭から抜けかけて、思わず自分の頭を叩いた。
(いや、次がある! 生きてる限り機会はある!)
心の中で男泣き。
そうやって自分を励まさなければ、気持ちを保てなかった。
ちらりと隣を見れば、朱里が震えながら机に突っ伏してスマホを持っていた。
「……最終回……エクスギア……終わった……」
今にも魂が抜けそうな、掠れた声だった。
(……夕方にやってるロボアニメだよな。何気に面白いやつ)
そんなことを思いながら、透の口が勝手に動いた。
「……最終形態、どうなったんだろうな」
小さく呟いた後にバッグに荷物を入れて透が立ち上がる。
首が取れそうなほどの速度で透に顔を向けて、朱里の瞳が揺れる。
(は? え、見てんの!? 乙女男子なだけじゃなくて、ロボもいけるタイプ?)
傷心していた朱里が透をまじまじと見る。
(え、なんか地雷踏んだ? めっちゃ見てくる)
呼吸を落ち着かせ、透は朱里を見つめ返す。
「……遅いし、帰るか」
「そ、そうね。さっさと帰った方がいいでしょ。……疲れたし」
はぁ、と深く落ちるため息を吐く朱里。
透は一瞬だけバッグの中で手を止め、それから小さな未開封の――
「……やる」
パステルカラーの可愛いロボットの形をした消しゴム。
朱里は、暫くそれを見つめていた。
「は……?」
つい間抜けな声が出た。
(なんでなんでなんで!? 何で消しゴムくれんの? しかもパステル系のロボ? ねえ、何で!?)
パニックになりながら落ち着かない様子の朱里に透は、机の上にそっと消しゴムを置いた。
(うわ、すげぇ機嫌悪そうな顔。余計なことしたか?)
朱里は、眉を寄せたまま消しゴムから目を離さない。
その形相が、いかにも怒ってるように見えた。
「……いらないなら、もらってやるわよ」
そう言って朱里が消しゴムを手に取って、握る。
沈黙が訪れる。
二人とも何か言うことはない。
「帰るでしょ。早くしなさいよ、藍沢」
名前を呼ばれて透の胸が騒いだ。
「……ああ、そうだな。伊澄」
平静を装い、朱里と共に教室を出る。
特に何かを話すことはなかった。
ただ、一緒に歩くと隣が気になって……。
(え、何でこんなに落ち着かないんだ? 補講一緒だっただけなのに)
(何でこんなに気になってんの? 補講同じだけってやつに)
この出会い、経過観察中。
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