大学になった私が恋をしちゃダメですか?

りつりん

大学になった私だって恋をしたい

『本日、都の議会で東京都在住の斎藤瑠々さんが第二京東都立大学になることが採択されました』

 そんなニュースが流れたのは高校生最後の春休みの三月。

 既に受験も終わり、あとは大学の入学式を待つだけの日々。

 何のサークルに入ろうかなーなんて、呑気にハーゲンダッツを食べながらソファでテレビを見ていた私。

 そんな私の目と耳に飛び込んできた衝撃的なニュース。

 もちろん、耳にした瞬間は同姓同名の可能性も疑ったけど、目に映るは顔写真付きの映像。

 数分後には、スマホの通知が大変なことになった。

 そして、世に駆け巡るニュースやらなんやら。

 続報に次ぐ続報。

『衝撃! 人間が大学に!』

『大学の意味と意義を考える』

『人間は大学たり得るか?』

 と言った感じで、昼夜問わずテレビで私の都立大学化が議論された。

 私の都立大学化?

 そもそも、第二京東都立大は新設の大学で、私が入学予定のところ。

 その大学に私がなる?

 入学予定者の私が?

 都立大に?

 言っても聞いても考えても寝ても覚めても意味の分からないこの状況と、そこに至るまでの種々の決定をとにかく説明してもらうべく都庁へと赴いた。

「担当者不在のため、お答えできません」

「なんでや」

 思わず行ったことすらない関西の弁になる私。

 目の前が暗転しそうになったその時だった。

「ああ、ごめんごめん。ちょっと昼に出てたんだ」

 聞き慣れた声が鼓膜を揺らした。

「お兄ちゃん!」

 振り返るとそこには、見慣れ過ぎて『本当にこの人だったっけ?』と顔面ゲシュタルト崩壊を幾度も繰り返してきたお兄ちゃんがいた。

 そう、声の主は私のお兄ちゃんだった。

 お兄ちゃんでした。

 無念。

「いやー、説明してなくてすまん。瑠々、都立大学になったわ」

「いや、だからなんでよ?」

 私大学化の主犯格・お兄ちゃんに聞き取りをしたところ、お兄ちゃんは私を可愛がるあまり、大学にしてしまったらしいのだ。

 妹が大学生になる日も近い。

 けれど、キャンパスライフは怖い。

 至る所に妹を狙う猛獣がいて、いつか妹も……。

 それなら妹自身を大学にしてしまえばいい。

 大学になればアプローチなんてできないだろう。

 だって、大学なのだから。

 そんな意味不明な思考回路を持つのがお兄ちゃんだ。

 けれど、兄は世渡り上手かつ、見た目も麗しいので、どんなに変なことを提案しても皆が皆、なぜか納得してしまう。

 しかも、仕事が速い。

 絶対、色んな許可とか必要だし、そもそも私が「来年度新設の第二京東都立大を受験したいな」と報告したのは昨年の四月。

 つまりは、高校三年生の春。

 そこからの数か月でどんなことをすれば私の大学化が実現するのか。

 そもそもどうやって、既に決まっていたであろう都立大学の計画に私という個をねじ込んだのか。

 全くもって意味が分からない。

 もしかしたら、お兄ちゃんだけ生きている世界線が違うのかもしれない。

 本気でそう思った今この瞬間。

「まあまあ、だまされたと思ってやってみ? 意外と楽しいかもだから」

 そんなこんなで私は大学と相成ったのだ。

 そして、迎えた四月。

 新しい大学として私は機能し始める。

 入学式もあったし、いろんな先生の研究室もできたし、学生も当たり前のように私に通い始める。

 もちろん、私も予定通り第二京東大学の学生となった。

 私は大学兼大学生となったのだ。

 のだ?

 もうよくわからんのよ。

 辛い。

 けれど、人生なんてものは意外と適当にできている。

 時間が経つと、この状況にも慣れてきて、六月になる頃には大学兼大学生ライフも板についてきた。

 そして何より、お兄ちゃんの読みは少し当たっていた。

 私はよからぬ男に騙されることなく過ごせている。

 ただまあ、大学だからそうあれているというよりは、大学に私自身がなることで多様な人間関係を観測できるようになったことが大きい。

 とあるサークルではいい人を演じていた人が、別のサークルでは粗暴だったり。

 先生の前ではおどおどとしていた人が、友達の前では変な一発ギャグをかましていたり。

 学食のおばちゃんに丁寧にお辞儀をしつつ会計を済ませた人が、その後に座ったテーブル、それを囲む友人をニヤつきながらディスったり。

 色んな人の色んな面を観測してしまったのだ。

 もちろん、これまでの人生においても人の二面性というものはそれなりに見てきた。

 けれど、それは偶発的なものだったり、そもそも数が少なかったりと決して解像度の高いものではなかった。

 しかし、大学になった私は、当たり前のように人の二面性を観測できるようになってしまった。

 神の視点、と言えばいいのかもしれない。

 まあ、さすがにトイレとかのプライベート空間は、私でも見れないように規制されているけれど。

 それでも、私がこれまでよりも遥かに用心深くなるには十分だった。

 さて、そんな用心深くなった私に、恋の季節が訪れることになる。

 いや、用心深くなったからこそ、恋をできた、と言った方がいいのかもしれない。

 相手はテニスサークルに所属する一年生。

 つまりは同級生。

 河本侑真君という人だ。

 彼は、誰を前にしても変わらぬ態度でいる人だった。

 先生の前でも、友人の前でも、知人の前でも、他人の前でも、なんなら人が傍にいない時でも、なぜかずっとガンギマリスマイルをしているのだ。

 ぶれることなくガンギマリスマイルな彼に、私は心惹かれた。

 正直、変な奴だと周囲からは思われているみたいだけど、それでも、今の私にとってどんな時も変わらない、ということはそれほどに素敵なことだと思えたのだ。

「え、もしかして恋してる?」

 お兄ちゃんが私の恋に目ざとく気づいたので、大学として毅然とした対応をとった。

 妹を大学にした兄であっても、恋路に踏み込むことは許されない。

 絶許。

 でも、恋したからと言って、アプローチしていいのかはわからなかった。

 だって、私は大学。

 彼は在学生。

 大学生でありながらも大学という立場になるにあたって、様々な規約的なものが書かれた書類に目を通してきた。

 けれど、そこには大学として在学生に恋をしていいのかどうかは書かれていなかった。

 でも、なんだかいけない気はする。

 だって、学生の様々な情報を持つ私が特定の在学生とそう言う仲になるのはマズい気がする。

 気が緩んだ時に思わず情報漏洩しちゃった挙句、全国ニュースになって相手にも迷惑をかける気がする。

 いや、私が意図的に流したり閲覧できるようにはできてないけど、それでも恋にのぼせ上ったことによるシステムの不具合、なんてのもあり得ない話ではない。

 そう考えると、彼への想いは封印せざるを得なかった。

 辛い。

 めっちゃ辛い決断だった。

 幸いだったのは、彼も浮いた話がなかったこと。

 さすがに彼が誰かと付き合い始めたりしたら観測はやめるけど、そうではなかったので、そのまま彼の素敵なガンギマリスマイルを、ある種の特等席で見続けることができた。



 私オンリーな侑真君観測ライフな状況が変わり始めたのは、二年生になってしばらくしてからだった。

 二年生になっても彼は相も変わらずのガンギマリスマイルで、新入生を怖がらせたりしていたのだけれど、二年生以上はそうではなかった。

 たしかに、彼はずっとガンギマリスマイルだけれど、その一方で、誰にでも等しく、誰にでも優しく接する人だということが理解され始めていた。

 そんな中、彼に好意を寄せる人も出てきたらしい。

 告白も幾度かされている。

 というのを、仲のいい友沢ちゃんから聞いた。

 いや、私も知ってはいたけれど、友人から聞くとダメージは何倍にもなった。

 正直、めっちゃ悔しかった。

 私はみんなが気づくずっと前から彼の良さに気づいていたのに、それを横から奪われそうになっている。

 今のところ、彼は全ての告白を断っているらしいが、それも本当にそうなのかはわからない。

 もしかしたら、断ってはいるけれど、その、体の関係とかあるのかもしれない。

 だって、私には見えないところがあるのだから。

 トイレや種々の研究室、更衣室などなど。

 大学である私が見れない学内ってなんだよって改めて思ったけど、よくよく考えたら、私の体自体も内臓とか普段見れないし、まあそんなところもあるかとは思った。

 それでも、嫌だけど。

 もしそんなところであんなことやこんなことを彼がしていたら……。

 そもそも、大学から出た彼のことを私は知ることができない。

 そこではまた別の顔があるのかもしれない。

 そう考えるだけで私は吐きそうになった。

 普通の大学生なら簡単には見えなかった彼の優しさや等しさが、当たり前のように見えていたからこそ、彼の見えない部分が急に怖くなった。

 それと同時に、私は自分のことが嫌いになり始めていた。

 フェアな恋じゃないのに、私は彼にフェアを求めている。

 私は何も曝け出していないのに、彼に私の見ている彼のままであってほしいと願っている。

 酷いやつだ。

 最低だとも感じる。

 多くの人の多面性を見てきたからこそ、私の隠す激情が恐ろしく醜く感じた。

 そんな都立大学らしからぬ激情を抱く私は、そのままどうしようもない想いを抱えて夏休みへと突入した。



 夏休み。

 私の大学という場としての役割は急激に低下する。

 講義がないため大学に来る学生の数は激減し、先生方も人にとっては学会や研究で出張をする。

 これまで賑やかだった私は一気に静けさに包み込まれる。

 一年生の時はようやく一息つけると疲労感たっぷりだったけれど、慣れてきた二年生の今は静かな自分が少し寂しく感じる。

 でも、それと共に安堵もしていた。

 彼のことを考えなくて済むからだ。

 適当に出かけて、適当に時間を潰して、彼のことは一旦忘れよう。

 大学である手前、しょっちゅう遠出はできないけれど、たまになら許可を取って旅行もできる。

 そして、友沢ちゃんと出かけた一泊二日の旅行。

 とある温泉街。

 そこで私は彼と会ってしまった。

 しかも、彼は女性と一緒だった。

 腕を組みながら、こちらに向かって歩いて来る彼が視界に入り込んできた。

 そんな彼の顔はガンギマリスマイルではなく、ややだった。

 それに、彼は女性に対して何やら文句を言っていた。

 それは、これまで私が見てきた彼とは全く持って異なる彼だった。

 瞬間、私の中の激情があふれ出す。

「なんでそんな顔しているの!? どうしてその子には優しくしていないの!?」

 私は彼の前に行き、思わず叫んでしまった。

「え? 何が……ですか?」

 彼は戸惑いの表情を浮かべ、それ以上に戸惑いを乗せた声を発する。

 私は自分のしたことを瞬時に理解し、全身から血の気が引くのがわかった。

「ち、違う……。違うんです……」

 そして、そのまま駆け出し、宿泊予定のホテルへと逃げ込んだ。

「あれは駄目だって、斎藤さん!」

 予約した部屋に入ったあと、友沢ちゃんにはめっちゃ怒られた。

 基本的に温和で温厚で、人当たりの良い友沢ちゃんに怒られるのはめっちゃ凹んだ。

 けど、彼女の怒りももっともなのだ。

 だって、私は彼を認識しているけれど、彼は私を認識していないのだから。

 もちろん、大学としての私は認識しているだろうけど、在学生としての認識、つまり、個人として相互に面識があるわけじゃない。

 学部が違うし、同じサークルにも入っていない。

 バイト先だって知らないし、住んでる場所も知らない。

 出身県、出身高校、出身中学、出身小学校ももちろん違う。

 そうなると、彼は私の怒りを『大学としての私の怒り』と捉えるのが自然な流れ。

 彼からすれば、シンプルに『え? 俺、何か大学の学則違反的なことした? もしかして退学路線?』となってしまってもおかしくはない。

 私はすぐさま、友沢ちゃんのアドバイスに従って、彼だけに大学の教育情報システムを介して通知を出した。

『先ほどの遭遇案件についてですが、人違いであったことをご報告、そして謝罪申し上げます』

 私の夏は一週目で終わりを告げた。

 そこからはただひたすらに、彼との遭遇という不運を呪い続けた。

 

 ☆


 後期が始まっても、私の気持ちは重怠いままだった。

 そのせいか、講義室のドアは開け閉めがしにくくなり、研究室の電灯が二段階ほど暗くなった。

 結果、クレームが相次いだ。

 学内のシステムで『今、マジ無理なんで』と全学生と全教員、全職員に通知を出したら、クレームは少し減った。

 こちらを憐れみの目で見てくる人は増えた。

 ほんと無理。

 ちなみに、彼とは学部は違うから会うことはないけど、そうであるからこそ、個人的な弁明の余地を生じさせることのできない私は、惨めな後悔を抱えることしかできなかった。

 まあ、そもそも、大学という立場を利用してストーキングみたいなことをし、勝手に激重感情を過積載し、勝手に彼に怒ってしまったのは私なのだから、どうしようもないのだけれど。

「はあ……」

 空は秋らしい青色を抱えている。

 私の窓も壁も池も、その青を軽やかに弾いている。

 それなのに、空に向かって吐き出される私のため息は、どうしようもないほどにくすんでいる。

 あー、早く卒業迎えられないかな。

 私はくすみきったため息を再び肺に入れ、脳内を霞ませていく。

 鈍れ、思考。

 遠のけ、過去。

「あ、あの……」

 そんな私にかかる声。

 私は少しだけ頭を振ると、ゆっくりと振り返った。

「……え?」

 振り返るとそこには⋯⋯。

 


 卒業式。

 無事、大学卒業という人生の小さなゴールの1つにたどり着けた私は、思ったよりも晴れやかな気持ちでいた。

 まあ、これからも大学ではいるので、人的な郷愁はあれど、場所的な郷愁はない。

 卒業式やその後の写真撮影など、一通りのイベントをこなした私。

 講堂に四年生全員入るのはやっぱりきついけど、達成感はあるなと今年も思えた。

 特に、自分の卒業でもあったし余計に。

 さて、一仕事終えた私は息つく暇なく大学そばの公園へと足を運んだ。

 木々が立ち並ぶ中、ぽつりと置かれたベンチ。

 そこに彼はいた。

「ごめん。遅くなっちゃった」

「ううん。大丈夫だよ」 

 私は彼の元へと駆け寄り、そして、そのまま抱き着いた。

「侑真君!」

「斎藤さん!」

 私がその胸に飛び込んだのは、あのガンギマリスマイル侑真君だった。

 けれど、彼はもう、ガンギマリスマイルじゃない。

 私の目に映るは、桜の花びらのように咲く、どこまでもピンクな笑顔だった。

 駄目だ。

 抱き着けたのが嬉しすぎで語彙とか死んでる。

 だって、私が、私たちがどれだけこの日を待ち望んでいたか。

「ううう、やっとなれたね。やっと恋人になれたんだね」

「だね。長かったよ」

 そう、卒業式を迎えてようやく、私たちは恋人同士となることができたのだ。



 俺が斎藤さんの存在を知ったのは、入学前の三月のことだった。

 入学予定の大学に人間がなる、という衝撃を軽く飛び越えて、テレビに映し出された彼女に一目ぼれしてしまったのも三月だった。

 恋をしたと同時に、俺は大きな悩みを抱えることになる。


 ―――在学生(仮)が大学に恋することってありなのか?


 そんな考えが俺を支配した。

 正直、一目ぼれの度合いが凄まじく、入学後すぐにでも彼女にアプローチしたい気持ちになっていた。

 高校時代、陸上部の短距離専門として鳴らしたスタートダッシュがここで生きていきというわけだ。

 けれど、そんなスタートダッシュをかけるには、あまりも多くの謎と困難が目の前に立ちはだかっていた。

 意中の彼女は、俺の入学する大学の学生であると同時に、大学なのだ。

 大学に在学生が恋をしていいのかという点に関して、都の担当者に問い合わせをしたところ『やってみろ。どうなっても知らないからな』という答えが返ってきた。

 怖かった。

 俺自身に処罰が下るのはいいけれど、彼女に何かがあってしまっては元も子もない。

 ただでさえ、公金で支えられている都立大。

 彼女には変な噂が立つべきではないのだ。

 とういうわけで、浅慮ながらも考えに考えた結果、俺はとにかく大学四年間を素敵な笑顔で過ごし、誰しもに優しくあり続けることに決めた。

 大学である彼女はおそらくではあるが、大学全体を常に観測することができると踏んでいた。

 そうでなければ、彼女が大学である意味もない。

 ということは、俺のことも無意識ながらも見る可能性もあるわけだ。

 ならば、せめて彼女の視界に映り込む俺は素敵でありたい。

 そう願ってのことだった。

 ただ、なぜか友人たちには「それは素敵な笑顔ではなく、ガンギマリスマイルでは?」と言われたことは不本意だったけれど。

 どこかで自然と彼女と接点を持てないかな、でも、全然持てないやーんと嘆きながら過ごしていた二年目の夏休み。

 俺は家族旅行でとある温泉街へと来ていた。

 ああ、斎藤さんは今頃何をしているのかな。

 少しでも休めているといいな。

 将来は都庁に勤めて斎藤さんにお金、貢ぎたいな。

 なんてことを、旅行中、家族との会話も上の空でずっと考えていた。

 そんな俺に対して妹はやや不満だったしく、ぶーぶーと宿までの道中で文句を垂れてきた。

 そんなタイミングで、俺は斎藤さんと偶然出会ってしまった。

 斎藤さんはこちらを見るや否や、「なんでそんな顔しているの!? どうしてその子には優しくしていないの!?」と言葉を届けてくれた。

 妹は面食らっていたが、俺は歓喜した。

 なんでそんな顔をしているの、ということは、俺がいつも素敵笑顔をしていることを知っている。

 どうしてその子には優しくないの、ということは、俺がいつも誰にでも優しくしていることを知っている。

 つまり、斎藤さんの言葉は、俺と、俺が斎藤さんに向けて行っていることが認識されているということの証左に他ならなかったのだ。

 これは勝ち確では?

 そう直感した俺は、すぐにでも斎藤さんに想いを届けたくなった。

 ちなみに、人違いでないことは明白だったので、通知は無視した。

 アーカイブには保存したけど。

 家とかは正直、調べて知ってはいたけど、さすがに押し掛けるのはマズいと思い、ぐっとこらえた。

 後期が始まったら、そこで話しかけてみよう。

 そんな素敵未来を想像しつつ、俺は夏休みを過ごした。 


 

「あの時、侑真君が声かけてくれて本当に嬉しかった」

「ううん。俺も勇気出して声かけてよかったよ」

 私は二年生の後期始まってすぐのことを思い返す。

 私に声をかけてきた彼は、私を好きだと伝えてくれた。

 私も、堪えきれずに彼を好きだと伝えた。

 それと同時に、二人でこの想いと関係は一旦封印しようと決めた。

 侑真君が私のことを知ってくれ、恋をしてくれた経緯と、私が侑真君のことを知った経緯と、恋をした経緯を擦り合わせた結果、卒業までは密な関係にならない方が吉だと判断できたからだ。

 ちなみに、侑真君は都の担当者へ問い合わせた時のことも教えてくれた。

 すぐにその晩、お兄ちゃんは生きたまま〆た。

 その両者の合意をもって、二年半もの間、私たちは互いへの気持ちを抑え、彼はガンギマリスマイルで、私は大学然として過ごしたのだ。

 もう彼がガンギマリスマイルをすることはない。

 私も、彼をストーキング的に観測することもない。

 私の横では柔らかな笑みを浮かべる彼がいる。

 それがどこまでも私の心を満たしてくれた。

 ちなみに、私は彼と恋人同士になった後も、ずっと大学であり続けた。 

 侑真君は人類初の大学と結婚した男として少しだけ有名になった。

 今、目下の悩みは子どもが生まれ、都立大学である私を志望されたらどうしよう、ということだ。

 入学とかできるのかな?

 そもそも入試ってどうフェアさを担保しよう?

 あ、今度の人事異動で、もしかしたら瑠々の担当になるかも?

 そこでなんか調整できるかも? 

 たぶん?

 そんな形にもなるかもわからない未来を、二人で話し合っては笑い合う。

 そんな今に、その未来に、そして、紡がれていく過去に、確かな幸せを感じて。

 今日も二人で笑い合う。

 ちなみに、友沢ちゃんから「2人の恋愛が正しいと思ったら駄目だよ。ほんとに駄目だよ。違うからね。大学になった人間とそれに恋した人間の間だったからなんかセーフ感あるけど、普通ならだいぶワンパクにアウトだからね」と言われたのはまた別のお話。

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大学になった私が恋をしちゃダメですか? りつりん @shibarakufutsuka

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