第2話

 ピーンポーン。


「んへぁ…?なんか頼んでたっけ?」


 自分の部屋の呼び鈴が押され、眠っていた俺の耳に甲高い機械音がこだました。眠りに落ちてまだ体感数分の感覚。始め、寝ぼけた自分の気のせいかと思ったが、もし本当にいま呼び鈴を誰かが鳴らしたのなら待たせているのは流石に良くない。


 マンションとはいえ、俺はここに住む大体の人と面識があるし、居留守を使うにしても少々心が痛む。もう目は覚めてしまったし、今更二度寝は無理だろう。


 誰か来てくれてるなら、待たせちゃってるんじゃね?


 徐々に覚醒してきた頭が正常に活動を始めると、当たり前なようで寝起きの俺には浮かばなかった考えが飛び込んできた。全身に力を入れて、重ダルい身体を起き上がらせると、飛んでいくようにフローリングの床を蹴って急いで玄関の扉を開けた。


「すみません〜。少し取り込んでて———————」


 アセアセと尋ねてきてくれたお客さんに謝罪しながらドアを開ける。不思議なことに、扉を開けてはじめに俺の視界に飛び込んできたのは訪ねてきてくれたお客さんでも、外の景色でもなく、青い制服にキャップを深く被った身何人かの男性たち。


 ダンボールに包まれたたくさんの何かを、開け放たれた玄関の奥へと運び込んでいく。


 そしてようやく俺の視界は自分の正面へと戻される。


「えっ」


 その時、目の前の来訪者から静かに困惑の声が聞こえた。か細くて、ふんわりとしている優しい声。ふわりと鼻腔を抜ける柚子の花のような甘酸っぱい香り。


 、光に照らされて輝く山吹色の長髪。スラリと整ったスタイルに、日本人離れした碧色の瞳は見つめる者を虜にする。白のカッターシャツの上からボタンを止めて羽織る漆黒のブレザー。


「あ、今日の新入生代表の子…!」


「う、ウチの高校の制服…!?」


 お互いに目を丸くさせて、じっと見つめ合う。そうしてしばらくした頃、俺の方から先に彼女に声をかけた。


「もしかして、隣に引っ越してきたのって…君?」


「はい…霜凪しもなぎ冬花とうかと言います」


「あ、俺千葉谷ちばたに彰夜しょうやって言います。今日生徒会挨拶で見たよ。たしか、代表挨拶の子だっけ?」


「聞いてくださっていたんですね。ありがとうございます」


 互いの自己紹介ついでに、今日の堂々とした彼女の姿を褒めると丁寧な口調で深々とお礼をされた。「くださった」なんて、まるで目上の人に使うような敬語の形で言葉を向けられると、なんともむず痒いものが胸のうちから湧き出てくる。


「そんなにかしこまらなくてもいいよ?俺こんな感じだしさ」


「いえ、お気遣いに感謝しますが千葉谷さんは『先輩』ですので当然です。それに、私のこう言った口調は昔からですから」


「あぁ…そ、そう?」


 相手がこの調子だとなんというか俺もかしこまらないといけない気がして、口調が乱されてしまう。試しにこっちからフランクに話しかけてみても目の前の美少女は凛とした姿勢を崩さず、はっきりと発言した。


 俺が彼女との微妙な噛み合わなさにほんの少し居心地の悪さを感じたその時だった。


 ゴトン!


 近くで、何か軽い物体が床に叩きつけられる音がした。会話を途切らせ、二人同時に音のした方を見ると立方体の大きな箱を三段ほど積み上げて運搬してくれていた業者さんが、そのうちの一つの箱をうっかり落としてしまったらしい。


「申し訳ありません!」


「いえ、お気になさらないでください。何度も往復していらっしゃるので大変でしょう」


 ハキハキとした口調で謝罪を口にすると、こちらに深々と頭を下げた。一方で霜凪さんは、怒った様子を一切見せずに落ち着いた口調で謝罪を受け取ると、業者さんに気遣いの言葉を投げかけた。


(落としたのは…あぁ教科書か何かかな。とりあえず中身は無傷…こんな感じのを三つも重ねて持ってくるとか引越し業者さんもハードワークだなぁ)


 落ち段ボールを持ち上げると、中身がゴトリと音を立てて傾く。たぶん、重量的に辞書か何かが入っているのだろう。これをいくらエレベーターがあるとはいえここ15階まで持ってくるのは相当しんどいだろう。


「あ、あの?」


「はい?どうしたんすか?…え!?もしかして足とか挫いたんすか!?」


 そのまま荷物を運んで行こうとすると、業者さんからまた申し訳なさそうな声がかかった。


「いえ!?そ、その、お荷物は我々がお持ちしなければならないので…」


「あ、そうなんすか?ごめんなさい、めっちゃ普通に持っちゃってました!もうこのまま俺が持っていきますわ!」


 気づいたら自然と体が動いていたが、業者さんは手伝わせるのに抵抗があるらしい。だが、俺が自分から勝手に動いて勝手に手伝っているだけなので正直そんな申し訳なさとかは感じないで欲しい。


「あっと…その前に、霜凪さん。これ、中に持って行ってもいい」


「…えぇ。どうぞ。でもどうして私に許可を?」


「いや流石に異性の家にズケズケ入んのは良くないだろ。見られたら嫌なもんあるかもしれんし」


「いいえ…特にそう言ったものはないから入っていただいて大丈夫です」


「よかった。サンキュー!」


 いくら隣人で部屋も同じ構造とはいえ、異性な上に後輩。ましてや今日会ったばかりなのにこの行動だと俺を変な男に思われているかもしれない。彼女のプライベートな部分を見てはお互い嫌な気持ちになるだろうし、ちゃんと許可を得に行くと思いのほかあっさりと返事が返ってきた。


 ただなんというか、ほんの少しだけ表情が曇っていた気がするけれど、きっと俺の勘違いだろう。


「…嫌な人ですね」


 そう呟いた彼女の声は、業者さんと軽く話しながら荷物を運び込む俺の背中には届かなかった。



 —————————


 お疲れ様です。


 この作品、ご好評であれば続けると言いましたが普通に作者が描いてて楽しいので描かせてください()


 これはもう伸びる伸びない関係なく、気まぐれに投稿していきますので気長に待っていただけたらと思います!

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隣に引っ越してきたワケあり年下英国美少女のお悩み相談したらデレ甘になった件~普段はドライな彼女が俺の前でだけデレる訳~ むふ。 @torityanhakakitai

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