びっくりマークのお姫様と夢の宴(三人の求婚王子と宴の夜の約束外伝)

細月香苗

今年一番の注目のお見合い

 今年一番の注目を集めた、歌姫リズハ・フォントとファミール・バサルのお見合いがはじまった。二人になったとたん「私をふってください」とリズハが言った。

ホテルのバラの庭の紅茶のテーブル席で。

「あ……それって、僕がふられちゃったかんじですか?」ファミールが飲みかけの紅茶のカップを持つ手を止めてリズハを見た。

「それは違います。ごめんなさい、私あなたのことを縁談よけに使わせていただいていたの。好青年で、家柄も良くて、優秀で、結婚したい№1でまだ相手が決まっていない男性、なのに、ことごく縁談を断っていると聞いたので。あなたじゃなきゃ、お見合いしないと言いはって」少し困ったような顔で小首をかしげてリズハが言った。

「あ……なのに僕はあなたとの見合いの話が来た時に、歌姫になれたらいいよって条件を付けてしまった。僕のこと好きじゃなかったんだ……カッコ悪いな」

ファミールが皮肉そうに笑い、紅茶を一口飲んだ。(うん、おいしい)

「私は条件が付いたことでほっとしたんです。条件が付くてことは、相手は私でなくてもいいんだって。だから、私をふってください」

「なるほどね。でも、そうはいかないんだ。君はずっと僕でないとお見合いはしないと全てのお見合いを話しが来た段階で会うこともしないで、断ってきた。そして、僕のところに君とのお見合い話しが来た……僕は歌姫になれたらいいよと条件をつけてしまった」ファミールがじっとリズハ見て首を振った。

「ダメダメ、それはない。君は僕の条件をかなえてしまった。そんな健気な乙女を、僕がむげにふる?ありえないよ。僕の好感度が地に落ちる」

「あら、私はルリア様の生誕百五十年の祝賀会の年の歌姫になるのが夢でしたの。あなたの条件をかなえるためになったんじゃありませんわ。結果的にそうなってしまいましたけど」

 ばらの庭の色とりどりの花の香りがリズハの心を震わせた。風が明るめの茶髪をゆらした。

「ふーん、でも世間的には君は僕以外とは見合いはしないと言って僕が出した条件を頑張ってかなえたのに、僕にふられたとしたらずいぶんと可哀そうな立場になるわけで皆にきのどくって思わわれちゃうんじゃないかな?」

「私は名よりも実をとるタイプです。結果的に自分の望みが叶うならそれでいいですわ。傷心の乙女に縁談をもってくる人はいないでしょうから」

「僕は名も実もとるタイプですよ。ねえ、君は結婚はしないの?」

「いずれは。でも、今はルリア様の生誕百五十年の祝賀会のことしか考えられなくて。それに、いろいろやりたいことがあるんです。結婚はまだまだ先のことです」

「ファミールが焼き菓子を1つ取り食べると、リズハを真顔で見た。

「ねえ、それなら、僕でいいんじゃない?僕と婚約したら究極の縁談よけになるんじゃない。結婚するのはずっと先でいいし、どうしても嫌なら破談にしてくれていい」

「えっ?それってお互いにってことですわよね?」さすがに婚約してから破談されるのは嫌だとリズハは思った。

「それはないよ、大丈夫。僕は君が好きだ。今のやりとりで君が好きになった」

「今のやりとりで好きになるポイントがどこにありました?」

「君興味深い。私をふってくださいだなんて……君が僕以外の人とは見合いはしないと言ったんじゃないか。噂で僕の耳にも届いたよ胸がざわざわした」すっかり冷めてしまった紅茶をファミールが飲み干した。

 思いがけない提案にリズハはじっくりファミールの顔を見てみた。美青年で優しく笑うファミールがじっとリズハをみつめていた。どきっと心臓が跳ねた気がした。

「しかたないですわね、見合いよけのためとはいえ、私があなた以外の人とは見合いはしないと言ったんですもの。そんな私が断れるわけがない。おば様にも悪いですし、ルリア様の生誕百五十年の祝賀会直前に嫌われ者の歌姫になるわけにはいきませんもの」リズハはボナルド国のルリアの子孫だ。

「それじゃ……?」

「婚約しましょう。いやになったら破談にしていいんですよね?」

 ファミールが右手をさしだして「よろしく。僕は君を僕のこと好きにさせてみせるよ、自信はあるんだ」と言った。

リズハも右手をさしだして、ぎゅっと握った


 後日二人の婚約が発表された。








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