【BL】クリスマス後夜、0:55。

しずる凛

【BL】クリスマス後夜、0:55。

クリスマスは嫌いだ。


赤と緑が交互に出てくるSNSのショート動画を見るのを止めると、俺はベッドに横になる。


「...もう来ないよ」


誰に話すとでもなく呟く。

...いや、来たからといってなんだって言うんだ。


...でも。今日来てくれたら。

これで終わりにしよう、ってハッキリ言える気がする。

そうしよう。

そして、もし来なかったら。...そうだ、0時までに来なかったら、

あの人の連絡先を、削除しよう。


無理矢理目を瞑る。何も考えないように。

そうしたらきっと、明日になっている。


ガチャ。扉が開く音がした。


...まさか。

まさか。


「やっぱり、寝てなかった」


黒のロングコートに覆われた、細身の身体。

貼り付けたような笑顔。

その人がそこに立っていた。何度も脳内で再生していた、あの人の声、想像したあの人の顔だった。


泣きそうになる。

...世界で一番、嫌いな人。


「サンタ業務が厳しくて、なかなか出られなくてね。娘がどうにか寝てくれて、一瞬の隙を狙って...何だっけアレ、流行ってるシールを置いてきたんだ。変なやつ」


妻が必死の形相で駆けずり回ってたよ、と特に興味もない話をつらつらと並べる。


「もう疲れてさ。流石に寝ようかと思ったよ。...だけど君との約束を破るわけにはいかないなって」


よく言うよ。


膠着している俺を、彼は余裕の笑みで見つめ、つかつかと近づいてくる。


「怒ってるみたいに見える」


「...怒ってないよ」


飲み込まれないように。無遠慮に近づいてくる彼との空間を遮断するように、わざとらしく深呼吸をする。

「...話したいことがあって」

彼は表情を変えない。


「もう、こういうのやめにしよう...って」

しまった。最後がうまく言葉にならなかった。


しばしの沈黙。

「...俺のこと好きじゃなくなった?」


彼が俺の目を覗き込んでくる。

苦手だ。


「そういうわけじゃない...けど。よくない、こういうの。ずっと言ってるけど...お互い辛いだけだよ」


彼は相変わらず、じっと俺の目を見つめた後、おもむろに立ち上がる。


「...そうだね。君の言う通りだ」


「今まで、楽しかったよ」


去る時は一瞬。彼の姿は、既に玄関にあった。

彼がドアノブに手をかけて...


「...待って」


「やっぱ、行かないで」


彼は動きを止める。

振り返った顔は、やはり貼り付いたような笑顔であった。


「なんで急に?」


「...分かんない」


俺は多分、泣いていたと思う。


「...んー」


「俺も傷ついてるんだよね。毎回毎回、訳分かんないこと言われてさあ」


「君は俺に、何をしてくれるの?」


「...何でも」


彼は唇の端を上げる。

「しょーがないな、許してあげる」


駄目だ。


彼は無遠慮に僕を押し倒し、かぶりつくようなキスをした。


前戯もそこそこに、彼は僕の中に入ってくる。うっ、と声が出る。


「やっぱり準備してたんだ。可愛いね」


煙草の匂いに思わず咳込む。嫌い、嫌い。


この煙草の匂いが嫌い。


この日に彼を独り占めできる、彼の妻と子供が嫌い。


クリスマスが嫌い。

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