第4話
侍女ラキに連れられ、私は宮廷内を歩き回った。
無数の建物が立ち並び、まるで迷路のようだ。
ラキが案内してくれているものの、覚えられる気がしない。
「今日はこの辺にしておきましょう。こちらが、これからヘヨン様がお過ごしになるお屋敷でございます」
ラキが指差した先には、ひときわ豪奢な屋敷があった。
陽の光を受けて、装飾がきらきらと輝いている。
「こちらに、トア様と共にお暮らしいただきます」
——そうか。
もう、ジェヒョンと同じ部屋で過ごすこともなくなってしまうのか。
胸の奥が、きゅっと締めつけられた。
「それでは、私はこれで失礼いたします」
ラキはそう言うと、静かにその場を去っていった。
気がつけば、見知らぬ場所で一人きりだった。
どうしよう……。
ジェヒョンは、どこへ行ったのだろう。
一人でいることに耐えられず、私は屋敷を出て、宮廷内を散歩することにした。
しばらく歩いた、その時——
全身を黒で包んだ、長身の男が目に入った。
……あ。
ジェヒョンだ。
私は思わず駆け寄ろうとして、足を止めた。
彼の隣に、見知らぬ男がいたのだ。
年の頃は、ジェヒョンと同じくらいだろうか。
しかしその姿は、あまりにも違っていた。
服は擦り切れ、手足は泥だらけ。
靴も履いていない。
腕には、大きな米俵を抱えていた。
——明日の婚礼式の食材を運ぶ、農民の方だろうか……。
二人は、親しげに言葉を交わしているようだった。
グラディア帝国に、彼の知り合いがいただなんて。
そんな話、一度も聞いたことがない。
そもそも——
彼は、私の話ばかりを聞く人だった。
自分がどこで生まれ、どこで育ったのか。
そういったことを、彼の口から聞いたことはない。
私が十歳、彼が十五歳の時。
突然、父に連れられて現れ、私の護衛になった。
その日以降の彼のことなら、何でも知っている。
けれど、それ以前のことは——何ひとつ知らない。
次の瞬間だった。
突然、ジェヒョンがその男を強く抱きしめた。
「レオ……! 生きていたのか!」
彼は、確かにそう叫んだ。
レオ……?
どこかで聞いたことのある名前——。
すると、レオと呼ばれた男は、何も言わずに一通の紙をジェヒョンに手渡し、そのまま立ち去っていった。
……一通の、紙。
私は、王の娘だ。
疑うことを、忘れてはいけない。
——もしかしたら、内通者なのかもしれない。
——彼は、私を裏切ろうとしているのかもしれない……。
王女は、護衛を愛してはいけない @1710010129j
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