第6話 妖刀の目覚め
草むらがガサッと揺れた。
「出たぞ……!」
八兵衛が身構える。
新助は鍬を握ったまま、一歩下がった。
現れたのは――
煤だらけで、手のひらサイズの妖怪だった。
「我こそは災厄をもたらす炎の化身――
**小火々(こびび)**である!!」
胸を張った瞬間、
妖怪の頭から ボッ と小さな火が出た。
……三秒で消えた。
新助
「……今の、蚊取り線香?」
八兵衛
「せめて線香は仕事するだろ」
こびび
「なっ!? ば、馬鹿にするな!
本気を出せば村一つ――」
走り出した瞬間、つまずいて転んだ。
「ぜぇ……ぜぇ……」
八兵衛
「……弱くね?」
その時だった。
⸻
妖刀の異変
腰に差していた刀が、カタ…カタ… と震えた。
「え?」
触れてもいないのに、
鞘から刃が スッ と半分だけ抜ける。
空気が変わった。
八兵衛
「おい……今の感じ、なんだ?」
新助
「寒い……いや、」
こびびはそれを見て、
顔色を一気に変えた。
「ひっ……!?
ちょ、ちょっと待て!!
お主、その刀――」
主人公
「いや、俺、抜いてないんだけど」
⸻
一閃
妖刀が低く鳴る。
キィィン……
次の瞬間――
視界が白く切り裂かれた。
音もなく、ただ一振り。
こびびは悲鳴すら上げられず、
煙のように スゥ…… と消えた。
地面だけが、真っ直ぐに割れていた。
⸻
戦闘後
沈黙。
八兵衛
「……今の、俺?」
新助
「完全に刀だな」
妖刀は、何事もなかったかのように静まり、
再び鞘に収まっていた。
八兵衛は、しばらくその刀を見下ろしていた。
「……これ、
弱い妖怪専用ってことにできないかな」
新助
「無理だろ」
「刀が言うこと聞いてないもん」
地面に残った一直線の斬り跡を、
八兵衛はしばらく黙って見つめていた。
土が、まるで紙みたいに割れている。
「……なあ」
ぽつり、と八兵衛が言った。
「俺さ」
誰に向けたともなく、
空を見上げる。
「これ持ってりゃさ……
大将軍にでも、なれるんじゃねぇかな……」
風が吹いて、
斬り跡に砂が落ちた。
新助
「お前が?」
八兵衛
「そこは一回くらい肯定しろよ」
八兵衛
「いや、でも……」
妖刀をちらりと見る。
さっきまで暴れていた気配はなく、
ただ静かにそこにあるだけだった。
新助
「無理だろ」
八兵衛
「即答すんな」
新助
「だってそれ、
お前が強いんじゃなくて――」
「刀が強い」
2人同時に言った。
八兵衛は一瞬むっとした顔をして、
それから、へらっと笑った。
「……だよなぁ」
でももう一度、
斬り跡に目をやる。
さっきより少しだけ、
夢を見る目だった。
人の世にて、妖となる うえすぎ @uesugi398
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