第4話 万能士、剣士パーティ解散の原因を知る


              *


「こっちであってるんだよな?」

「あってるあってるぅー。あははははっ」


 何が楽しいのか笑い声を上げてるネーミア。

 僕は彼女に貸した肩の位置を直しながら、静まりかえった一軒家が並んでいる街の中を歩いていく。


 セルグスの街の西門に近いこの辺りは、借家街。借りているのは商人や旅人、冒険者と言った街の出入りがある人間。

 グレックがパーティハウスとして借りていた家は、北側の高級住宅街の隣接地域。

 西門の近くは大怪嘯で多くの被害が出て再建されたため、新しい建物が多い。


 大怪嘯はそう頻度の高い現象ではないとは言え、普通の人々は恐れて住みたがらず、冒険者が多く住む地域となっていた。

 ずいぶん長い間ふたりで飲み明かし、閉店するから出て行けと言われた僕は、すっかりできあがってしまっているネーミアを彼女の家に連れて行っているところだった。


 ――そう思えば宿取らないといけないんだった。すっかり忘れてた。


 もうほとんど眠っているネーミアのおぼつかない足取りにあわせて歩き、今日の寝る場所にため息を吐きながら僕は一軒の家の前に着いた。


「ここで良いんだよな?」

「……うん。ここだよー。これ、鍵ぃ」


 こんな状態だからだろうけど、何のためらいもなく鍵を差し出してくるネーミアに言葉を失いながらも、仕方なく僕は差し出された鍵を受け取り、家の扉を開けた。


「……うわぁ」


 扉を開けた瞬間、僕はネーミアのパーティが崩壊した理由をだいたい察した。


 汚家。


 そう表現するのがぴったりの状態。

 照明が点いておらず月明かりで薄暗い床は冒険に使っただろう道具であるとか、外套などの服とか、何かが入ってるだろう箱とか、埃の塊などでほとんど見えない状態となっていた。


 長年かけて物が増えて片付けられなくなったとかではない。

 道具は壁に立てかけられてるから掃除をする気はあったのだろうけど、疲れていたり面倒だったりで後回しにして、アッという間にヒドい荒れっぷりになった感じだ。


 ――ネーミアはランバルディ子爵家のご令嬢だっけ。


 噂と本人の話から出身がわかっているネーミアは、貴族令嬢。

 どうしてそんな女の子が冒険者になっているのかはわからないが、家事はあまり仕込まれてこなかったのかも知れない。


「ネーミアさん。部屋はどこなの?」

「ん……。二階の一番、奥――」


 ほとんど寝入ってしまって身体から力が抜けてしまっている彼女の身体を抱き上げ、僕は入り口すぐ横にある階段を足許に気をつけながら上がっていく。


 二階の廊下に出て窓から差し込み月光を頼りに見回してみると、個室は五部屋か六部屋らしい。

 二階は片付いてるなんてことはなく、やっぱり物で溢れている中を慎重に歩き、一番奥の部屋の扉を開けた。


「……懐かしいな」


 部屋の中を見た僕の口から漏れたのは、そんな言葉だった。

 洗濯されていない服や洗われていない食器、埃を被った剣が何本も転がってるかと思えば、趣味の良い調度品がバラバラに棚の上に置かれたりと、混沌としている。


 ネーミアを片手で支えてベッドを軽くはたき、剣が下がっている腰のベルトだけ外した彼女を寝かせてくしゃくしゃのかけ布団をかけた。


「さて」


 寝息を立てて完全にに眠ってしまっているネーミアから振り返った僕は、部屋の中を見て気合いを入れる。


「今日は奢ってもらったしな」


 背負い箱を床に下ろした僕は、腕まくりをしていた。



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ありふれ万能士(ディバイナー) 役立たずとパーティを追い出された俺は、勇者の家政夫を始めました 小峰史乃 @charamelshop

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