第9話 人生経験。やはり人生経験が大事だ……
「ブラックベアーやらグリーンウルフやらジャイアントビーやらを引き連れた魔物使いなんざ今まで見たことねーぞ?」
「今、あなたの目の前にいますけど……」
「あ、いや、そういうことじゃなくて、だなぁ……」
「『魔物使い』だと町には入れない、ということでしょうか?」
ボーダントの町の門番に止められて、ボクはそんな問答をしてる。
背中のミカゲがイラついてるのが分かるので、後ろに手を回して軽くお尻をなでておく。
(ぁん……)
いや、甘い声は出さないように!? 相変わらずエロいな!?
「魔物使いでも従魔登録すりゃ問題ねーんだが……」
「それでは最初に従魔登録するにはどうすればいいんですか?」
「そこはまあ、おまえさんが言う通りだよなぁ。ここを通さないと従魔登録ができねーってことになっちまうし……」
どうやら、門番の人も絶対にボクをここで止めようって雰囲気ではないらしい。
従魔登録があれば通してはくれる。
でも従魔登録のためには中に入らないと無理。
……どうしろ、と?
「……私が冒険者ギルドの職員を呼んできましょう。それでいいのでは?」
盗賊から助けた商人のカイラッドさんがボクの味方をしてくれる。
なんていい人だ……この人を助けて本当によかった……。
「む。それならどうにか……おまえさんにはここで待っててもらうことになるが、それでいいか?」
「最終的に町に入れるのなら問題ありませんよ」
「従魔登録してりゃあ問題ねーよ」
……とりあえずここにいるジャイアントビー2匹とグリーンウルフ3匹とブラックベアーのキンタだけは登録することになるか。
あと、ミカゲはともかく……フクロフクロウは1羽分、登録したい。
森の奥にいる連中は……登録の仕方によっては交代できるかもしれないけど、どうなんだ?
やっぱりみんな送還しておくべきだったかな?
でも、そうすると……『魔物使い』としては目立たないんだよな。
森の中でいろいろな活動もやってるし。
オーク退治とオーク肉の生産、加工とか。
ハチミツの生産とか。
ホーンラビットやグリーンウルフの繁殖とか。
ゴブリンの殲滅とか。
まあ、ボクがあの数を引き連れて町にやってきたら、それはもうただのスタンピードだし。
……やったら魔王って呼ばれそうだ。ちょっとやってみたい気持ちもあるけど。
いや、封印されし厨二心が!?
そういうのってあるだろっ!?
カイラッドさんの善意で、冒険者ギルドの職員がやってきて……そこでもいろいろとあったけどまあ、とりあえず従魔登録はできた。
ジャイアントビーとグリーンウルフは首輪をつけて、キンタは首じゃなくて腕輪にするしかなかったけど、これで従魔として認められるらしい。
冒険者ギルドの職員もキンタにビビるってどういうこと?
あと、フクロフクロウの分もひとつ、従魔登録はさせてもらった。まだ森の中にいるからって説明で。
なかなか冒険者ギルドの職員が納得してくれなくて困ったけど、首輪だけをもらえたらそれでいいんだし、また門で騒ぎになるのはお互いに困るってことで。
ついでにボクの冒険者登録もすることになった。
いや、ついではどっちなんだ? 従魔の方かな? まあいいや。
そんなこんなで町に入るだけでいろいろと大変だったボクのことを心配したカイラッドさんが、とりあえずカイラッドさんの家というか店で一泊させてくれるって話になった。
……夜はミカゲのあの声を抑えさせないとマズいかもな。
カイラッドさんが宿の心配をしてくれたのは、キンタみたいな従魔と一緒に泊れる宿がないから。
この町まで一緒に旅したカイラッド氏は、キンタたちが暴れたりしないってことを理解してる。
もちろん、暴れたらヤバいってことも盗賊との戦いで知ってるし。
だからカイラッドさんなら受け入れられるという話で。
普通はちょっと無理なんだそうな。
とりあえず、カイラッドさんの馬車に続いて、ボクたちも進む。
キンタにまたがって、先導のグリーンウルフ、両脇のグリーンウルフ、頭上の左右にジャイアントビーだ。
ものすごく目立ってるのは……魔物使いとして名前を売るためだからいいとして。
もともと陰キャ寄りだったボクには……この注目は気持ちいいと同時に、けっこうつらいかもしれない。早く慣れないとだめだな。
「ブラックベアーに乗ってるぜ……」
「あれが暴れたらどうすんだよ?」
「でも従魔なんだろ?」
「魔物は魔物だろうが」
「ジャイアントビーなんて初めて見たな」
「グリーンウルフって意外と、カッコいいよな……」
「ママー、こわいよー」
「見たらダメって言ったでしょ」
……この人たちって従魔がゴブリンだった場合、どういう反応してるんだ?
ナタリー王国の王都にはほとんど滞在しなかったけど、ゴブリンを連れた魔物使いなんか一度も見かけなかった。スライムでも同じだ。
最弱職だから、かもしれない。
そもそもそのジョブを活用していないって可能性が高い。
それだと……魔物使いの可能性もわかってないんじゃないだろうか?
……ボクのマネは他の魔物使いにはたぶんできないから、憧れられると困るかも。
でもまあ、聞こえてくる内容なら……ボクに憧れるって話にはなりそうもないか。
魔物使いは最弱職として馬鹿にされていて……だからこそボクは目立つ。
そうして活躍して、あの国を悔しがらせる。
あの国を悔しがらせるだけの活躍をする!
もう遅いを実現させるんだ!
その第一歩はこの町から!
(……ご主人さま。わらわも注目されとるのじゃ)
「いや、ミカゲは今誰にも見えてないだろ……」
(ご主人さまはいじわるなのじゃ……)
「夜はゆっくり……してあげるから、な?」
(ふみゅう……約束なのじゃ……)
すねてるミカゲをなだめつつ、ボクはカイラッドさんのお店へと近づいていった。
「今日は本当にありがとうございました。助かりました」
「こちらとしては恩返しですから、気にしないで下さい」
カイラッドさんとの夕食の場で、ボクはそんな話をする。
こういう場でコミュニケーションを取る経験とか……高校入試の面接くらいしかないけど。
でも、活躍する魔物使いになるには、頑張らないとな!
「それで……お礼という訳ではないんですけど」
「お礼、ですか?」
「そうです。まあ、ボクとしては……魔物使いの未来への可能性というか、新たな方向性というか、そういうものを目指してまして」
……自分でも何を言ってるのかよく分からん。でも、そんなイメージなんだよ。
「魔物使いの……? 可能性、ですか……?」
「はい。これを、確認してみて下さい」
ボクは木の器に入った、粘り気のある液体をカイラッドさんに見せた。
「……これは?」
「ジャイアントビーの、ハチミツですね」
「ジャイアントビーの? 冒険者が巣を狙って大群を倒さないと手に入らないというアレですか?」
え?
そうなの?
巣を狙って大群と……それってかなり危険なんじゃ……。
「……ボクの場合は従魔になってるジャイアントビーから分けてもらえるんで」
「それは……確かに、魔物使いの新たな可能性かもしれない……」
カイラッドさんはハチミツに視線を落として、それをじっと見つめていた。
ここから商談に持ち込みたい。
でも、そんな人生経験とかないんだって!?
だからそっちから言い出してくれぇ!? 頼む!?
全てはカイラッドさんにかかってるんだ!?
ボクは表情を崩さないように保ちながら、そんなことを心の中で叫んでいたのだった。
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