第8話 生まれ育ったところとは……全然違う世界で



「……ご主人さま。馬車が襲われとるのじゃ」

「えっ!? どテンプレじゃん!? マジか!?」


 ボクはミカゲが指差す方を見た。

 確かに馬車が襲われて、戦闘になってる。


 人間に、襲われてる。

 魔物ではなく、人間に、だ。


「盗賊なのじゃ」

「そっちかぁ。まあいいか。ミカゲは姿を隠して。あとのみんなはあっちへ。馬車を襲ってる連中だけを狙って、戦闘不能にしたらそれ以上は馬車には近づくなよ」


 ボクを召喚したあの王国の王都にできる範囲で嫌がらせをして……それからボクとミカゲは山越えをして別の国へとやってきた。


 元の国はナタリー王国、山越えしてやってきたこの国はアンペーラ王国らしい。こういうのは全部ミカゲ情報だ。


 ジャイアントビーが2匹とグリーンウルフ3匹が先行して、ブラックベアーに乗ったボクと、そのボクにバックハグして大しゅきホールドかましてるミカゲが続く。

 ただし、今のミカゲは透明モードだ。


「なんだ!?」

「魔物がきたぞ!?」

「くっ!? 盗賊だけでも苦戦してるというのに!?」


 馬車を守ってる方の人たちから声が聞こえる。


 ……いや、申し訳ないけどその子たち、味方だから。


 ジャイアントビーが上空から盗賊を麻痺毒で牽制する。

 慌てた盗賊は馬車の護衛に向けていた剣を空に向けて振り回す。


 その足元へグリーンウルフの噛みつきだ。そのまま引きずり倒すところまで。


 すぐに盗賊からグリーンウルフは離れて、ジャイアントビーと一緒に次の盗賊へと向かう。


 魔物使いとして主となっているボクの思考に合わせた行動ができるジャイアントビーとグリーンウルフ。


 ボクが指揮官として努力していれば、自然と総合的な攻撃力は高まる。


「痛ぇ!? 足が!? 足が!?」

「くそ!? うわっ!?」

「こいつら、オレたちばっかり狙ってるぞ!?」

「前後から挟み撃ちじゃねーか!?」


 魔物の攻撃を受けて盗賊たちが混乱しだした。

 これで形勢は逆転するはず。


「よし! 下がれ!」


 ボクはブラックベアーから跳び下りつつ、後退の指示を出す。

 ジャイアントビーとグリーンウルフが後退する。


「キンタ、行け!」

「……わらわもイキたいのじゃ……」


 背中からエロい声で囁くのはやめろって。まったく。


 ブラックベアーのキンタがスピードを上げて盗賊たちへと突っ込んでいく。


「うわあ!? ブラックベアーだとぅっ!?」

「ひでぶっ!?」

「ぐはぁっ!?」


 吹っ飛ぶ盗賊たち。


 乗用車による交通事故みたいな破壊力。それ以上かもしれない。

 いや、あの盗賊たち……トラ転するんじゃないか……?


「ど、どういうことだ……?」

「魔物が、盗賊たちだけを狙って……?」


「ボクの従魔なので、心配しないでもらえたら助かります」


 歩いて馬車へと近づきながら、ボクはそう声をかける。

 そのボクの頭上にはジャイアントビー2匹が、足元にはグリーンウルフ3匹が戻ってくる。


「従魔だって!?」

「あれが!?」

「それよりも、盗賊を攻撃するなら今です!」

「あ……」

「そうだな!」


 護衛の人たちが守勢から一気に攻勢へと移る。

 これで完全に形勢逆転だ。


「くそがっ!?」

「ちっ! せめて、てめぇだけでもっ……」


 総崩れになる盗賊たち。

 その中から、ボクの方へと怒りの矛先を向けた盗賊の一人が襲いかかってくる。


「……わらわがご主人さまへの攻撃を許す訳がないのじゃ……」


 ボクの背中から濃い紫のキラキラを巻き散らしつつ魔力が放たれ、襲いかかってきた盗賊の動きが鈍る。

 一歩、二歩と、ふらついて、そのまま膝をつく。


 ばたりと倒れて、眠る。


 ミカゲの闇魔法だ。


「……ご主人さま。どうやらいきなり練習の場がきてしもうたようなのじゃ」


 背中からミカゲにそう囁かれる。


 ボクとミカゲはこれからのことを何度も話し合ってきた。


 その中で課題となっていたこと。

 ボクが人間を殺せるか、どうかって話。


 王都から森へと逃げた後はホーンラビットに始まり、グリーンウルフやジャイアントビー、それにゴブリンやオークなんかもボクは殺してきた。


 でも、まだ人間には手を出してない。


 こっちの世界では……ボクが元いた日本とはそういう感覚が全然違う。


 命が、軽い。

 ボクが『魔物使い』だったというだけで、いい加減な扱いを受けたみたいに。


 悪人に人権はないって有名なセリフがあるけど、そもそもここでは人権そのものがないんだろうと思う。


 誰もがひとりの人間として尊重されるような……そういう世の中からは程遠い、完全な異世界。


 ……どうせ慣れなきゃいけないんなら、早めがいい、か。


 ボクは眠って倒れた盗賊の背中から心臓を狙って、全体重を乗せたショートソードを深々と突き入れたのだった。






「……助かりました。感謝を」


 馬車の持ち主である商人のカイラッドさんが頭を下げながらそう言った。


「いえ、当たり前のことですから」

「それにしても、その……あなたは『魔物使い』なので?」

「ええ、そうです」


 どうやら『魔物使い』がせいぜいゴブリンくらいしか従魔にできないというのはこっちの国でも同じらしい。

 ミカゲからもそう聞いていたけど、実際にそうなんだと感じてボクはガッカリしてしまう。


 でも、それならボクの特別さは目立つはず。


「……では、本当に……ジャイアントビーやグリーンウルフ、それにそのブラックベアーも……」

「ボクの従魔です」


「……初めて聞いたぜ」

「そんな魔物使いもいるんだな……」


 護衛のつぶやきが……本人は意識してないんだろうけど、声がでかいんだって。

 聞こえてるからな?


「いったいどのようにして……あ、いえ。秘術でしょうから、お気になさらず。失礼しました」

「いえ、気にしてませんよ。ボクはただ……他の魔物使いよりも命がけで努力をした。それだけですから」


 本当は全部偶然の産物で、しかもチートです。


「……命がけ……そう、でしょうね。苦労なさったのでしょう」


 その言葉にボクは微笑みを返す。あいまいな笑顔は得意な民族だ。


「ところで、今からどちらの町へ行く予定だったのですか?」

「我々はボーダントの町へ行くところでした」

「ああ、それなら目的地は同じですね。みなさんの後ろを……少し離れて続いてもいいですか?」


 本当はどこかの町を目的地にしてた訳じゃない。

 町の名前も今、知ったばかり。


 でも、ここがどこなのかも正確には分かってなかったから、とりあえずこの人たちと一緒に行動するのが正解だと思う。


「いえ、少し離れるなど……そんな必要はありませんよ。あなたは命の恩人です。ぜひとも一緒に行きましょう」


 おお! この人!

 カイラッドさん! なんていい人なんだ!


 でもブラックベアーのキンタにめちゃくちゃビビってるけどな!


 こうしてボクたちはカイラッドさんと一緒にボーダントの町へと向かうことになった。


 とにかく……あの国を……ボクを『魔物使い』だと切り捨てたナタリー王国が後悔する日を目指して。


 最高の魔物使いに、ボクは……なる。


 ……もうなってるって説もあるけど、まだ無名だから!?





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