第2話 ハニトラはロリっ子ってそりゃ事案だろぅぅっ!?



「あれが晩メシかぁ……」


 ボクが食べたのは具が極端に少なくて味の薄いスープと、かなり硬いパン。パンはスープにしっかりと沈めてからでないと歯が欠けそうなレベルで超硬いヤツ。


 ここ、王城とかいってたけど……絶対に底辺な人の食事だろ、あれ。


 ……他の人たちはいいもん食ってるに違いない。くっ。泣きそうだ。


「とりあえず、トイレにでも行くか……」


 ベッドと窓しかない部屋から出て、ボクは通路を歩く。

 トイレの位置だけは教えられてる。汚されたくなかったに違いない。


 ボクの部屋を出てトイレに向かうと、途中で他の人たちの部屋の前を通る。

 他の人たちの部屋はドアとドアの間隔が圧倒的に広いから、絶対にボクよりも広い部屋を使ってる。


 ――あっ。あぁん、あっ……ああっ、勇者さまっ、ああっ、勇者さまっ。


 ちょうどそこのドアのところから、何かが聞こえてきた。

 ボクはマッハくらいの速さでそのドアに近づき、耳を押し当てた。男の子だもの。


『ああっ、勇者さまっ!』

『おらっ、おらっ! まだまだイクぜ!』

『もう、もう! もうダメ~~~!』


 ……ボクに対する差別は食事だけではなかった件。


 あいつらには女の子まで用意されてるぅぅぅぅぅぅぅ!?

 それは異世界召喚定番のハニートラップだろぅぅぅぅぅぅぅ!?

 満喫してるんじゃねーよっ!? 警戒しろやっっっ!?


 ……それをドアに耳を当ててまで聞いてるボクがいる。うっ。泣けてくる。


 と、とりあえず、トイレに行くんだ……。


 ボクは心が折れそうになりながらもフラフラとトイレを目指した。


 とある一部分だけはフラフラではなくピンと起立してたけど……。






「ふぅ。すっきりした……」


 予定していたよりもトイレには少し時間をかけてしまった。

 その結果、賢者タイムを迎えたボクは部屋に戻ろうとした。『魔物使い』なのに賢者タイムとはこれいかに?


 ……もうあの通路を歩いても、ドアには耳をくっつけないぞ、と心に誓って。


 薄暗い廊下。

 文明の進歩は中世か、近世か。


 いわゆるナーロッパ的な石造りの王城。

 ろうそくの灯りがあるだけマシなんだろうか。


 これからこの世界に放り出されて……生きていかなければならない。


 そう考えたら割と地獄すぎる!?


「……甘い匂いがさらに甘美な匂いに変わったと思うたのじゃが」


 これからの不安を感じていたボクの耳に、突然、女の子の声が聞こえてきた。


 声のした方を向いたら、そこには小学生くらいの女の子……って!?


 布面積ぃぃぃぃっっっ!?

 それ完全にアウトなヤツだろうぅぅぅぅぅ!?

 DVDが発売禁止になるタイプの布面積の水着的なぁぁぁぁっっっ!?


 色が黒だけど!?

 ああいうヤツは白が多いから黒は珍しいけども!?


 ボクのハニトラだけ!?

 なんでヤったらダメなヤツなんだーーっ!?


「その服、珍しいのじゃ。そなた、界渡りで召喚された勇者じゃな?」

「はい?」


 そう言われて、ボクはもう少しその「のじゃロリ」な女の子をよく確認した。


 何かがおかしい。


 薄暗さに馴染みすぎている。布面積以外は。


 いや……違和感が?

 あれは……羽? 背中から? コウモリっぽいヤツ?


 え……?


「運がいいのじゃ。これで……手柄はわらわのものじゃな」


 女の子がぶるんと大きく腕を振るう。

 腕をあんなに動かしても、胸はちっさすぎて何の動きもないけど。

 さすがは『のじゃロリ』だ。


 でも、その手からなんか紫色のキラキラがボクの方へと向かって――。


「うわっ……なっ!? 頭が……ぐはっ!」


 い、痛い!?

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!?


 頭の中を無理矢理かき回されたような……ありえないほどの激痛。


 ――意識がとびそうになったボクは、なんだかよく分からないまま、必死になっていた。無我夢中というべきか。


 女の子へと手を伸ばしながら、無意識にその言葉を口にする。


「て、ててて、テイム!?」

「なんじゃ? ずいぶん抵抗力が高いのじゃな? いや、これは……」


 女の子の目が大きく見開かれていく。


「……『支配術式』じゃと? ナメたマネをするものじゃな? 120年生きた魔族であるわらわにそんなものが効くなどと……うっ!? なんじゃこの魔力量は!?」

「うわぁぁぁっ!?」


 ボクは訳も分からず、とにかくその女の子に……ぎゅっと抱き着いた。


 わざとじゃないからセーフなはず。

 おまわりさんは呼ばないで。


「ぐはっ……うっ。な、なんじゃと……ふはっ……あっ。あぁっ……あっ」


 全ては偶然の産物だった。

 女の子の目が、一度光を失い……そこから赤く、ギラリと輝く。


「……あぁ。ご主人さま……ご主人さまご主人さまご主人さまご主人さまご主人さまご主人さまご主人さまご主人さまご主人さまご主人さまご主人さまご主人さま……」

「えっ……って。むぎゅ!?」

「くちゅっ、くちゅっ、ぶちゅっ……」


 気がついたら、ボクは女の子にめちゃくちゃキスされてた件。


 ……って!?

 これって事案じゃねーか!?


 ボクは大慌てで自分の部屋へとダッシュした。女の子を抱きしめたままで。


 いや、それだとどっちにしても事案のような気はするけど?

 とにかくボクは自分の部屋にその女の子を連れ込んだのだった。キスしたままで。


 おまわりさんがいない世界で助かったの、か……?





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