「滝岡総合病院のクリスマス」3


「おはようございます」

「おはようございます、神原先生」

「先生はいいですよ、…滝岡さん、神尾さんも」

「そうですね、よう、関、いってた奴、持ってきてやったぞ?」

関の家―――それも、その中で台所は何故か白木造りのカウンタに、中で調理が出来るようになっていて。

 驚いていると、カウンタにどうぞ、といわれて、いま関の手作りかつ出来たての実に美味しい白いご飯に御茶漬け用の山葵と海苔に、目玉焼き――これは、光のリクエストだ――と、焼き魚に味噌汁という贅沢な朝食を食べていた神原と光だが。

 そこへやってきた滝岡が、無造作に何かの包みを関に渡す。

 光の隣に座りながら、滝岡が神原に云う。

「ああ、これはコーヒーです。豆を貰ったので、こいつにも別ける約束をしていたんですよ」

「それがなあ、…。刑事も大概忙しい職業だが、おまえら医者は約束しても日時をきちんと守った試しが無い」

うれしそうに豆の袋を確かめてから、冷たい視線になって関が滝岡に云うのに、神尾が笑う。

「まあ、仕方ないですよ。多分、あの患者さんのときですよね?関さんから連絡が来ておられた」

「…――悪かったな、関」

顔を顰めていう滝岡に、関が笑う。

「ま、いいけどな?ほら」

手許に置かれた白子の乗った山葵に海苔の乗った御茶漬けと、ついで出された御茶に滝岡が無言になる。

「…――ありがとう」

真剣に感動してみている滝岡に、ついでに付け合わせなど出してやるが。

「…いただきます!」

真剣に手をあわせて食べ始める滝岡に、あきれて少し息を吐いてみて。

「本当に、おまえ白子が好きだなあ、…」

山葵も一応本山葵を摩り下ろしてやってるんだから、そこにも感動しろよ?といいながら、焼き魚の裏を返す。

「はい、こちらは神尾先生」

関が僅かに微笑んで、焼き魚にかぼすを添えて、白いご飯に海藻の入った吸い物碗と共に出す。

「ありがとうございます。…凝ってますね、全員に違うもの出してるんですか?」

神尾が気付いていうのに、神原も改めて自分と光、それに滝岡と神尾に出された朝食を比べてみる。

 そういわれてみれば、神代先生には目玉焼きで、僕は焼き魚ですね。

 あ、焼き魚じゃなくて、皮が焼いてありますけど、煮魚ですか?

 これは何ていうんだろう?と生姜の千切りが煮含めた汁と共に皮に焼色の付いた煮魚に添えられているのを箸で頂きながら。

「美味しいですね」

焼き魚か煮魚かわかりませんけど、美味しいですね、と思いながらいう神原に。

 関が、にっこりと応えかけて。

「…―――おいっ、鷹城!」

「おはよー、…皆さん、もうおそろ、…うわっ、永瀬さんっ!」

「ひどい―っ!皆、おれだけ置いて朝御飯なんてーっ!」

後ろからべったりと抱き付く永瀬に、動きをとめている鷹城をみて、滝岡が冷たくいう。

「おまえな、…。永瀬、命拾いしたぞ?後ろからこいつらに抱き付くな、とあれほどいってるだろうが?現役の自衛官と刑事だぞ?いまも関が止めなかったら、おまえ投げられてたぞ?…――ったく、気をつけてください!」

「…そこですか」

 神尾が茫然といい、神原がその言葉に無言で幾度も頷く。

 鷹城が、それを聞きながら振り向いて、永瀬の手をそっと外しながら。

「…永瀬さん、別に僕の職業はともかく、…永瀬さんだって自衛官だったんでしょ?なのに、…―――。にいさんの云う通り、僕、いま投げる処でしたよ?危ないですから」

「いいもーん、…。投げられたって、ちょっとくらいなら受け身できるもーん」

すねる永瀬に、滝岡があきれて。

「おまえな。…先輩、―――少しは、生死の境を彷徨う怪我をしたことくらい、憶えておいてください!いいですか?飲酒は勿論ですが、貴方の身体には、人工骨が入ってるんですよ?激しい運動なんか、もっての他です!」

厳しい顔で叱りつける滝岡に、神原が少し目を見張って神代に訊く。

「…あの、永瀬さんって、」

「どれから聞きたい?正義がこのおじさんの主治医なことか?戦闘地域にボランティアで医療活動しにいって、爆弾に吹っ飛ばされて肝臓と肋骨とその他もろもろ吹き飛んで、正義が手術して一命を取り留めた後に、三ヶ月で戦場に舞い戻って、正義が現地に飛んで叱りつけて連れ帰って、うちで働く事になったことか?どれからがいい」

白ご飯を手に、真面目に見返していう神代に、神原が云う。

「いえ、いまので大体知りたいことはわかりました」

「そうか、よし」

あっさりいって、神代がご飯をくちにする。

「うん、うまい!」

「わかったわかった、…―――ほら、永瀬」

光の言葉に頷いてから、関が永瀬の前に。

「…――――関ちゃん、…」

 目の前に出された、角皿に置かれた実に美しい白身の焼き魚――――細長い切れを焼いているのか、白身に仄かな焼き色がついて、傍に実山椒が添えてある―――をみて、永瀬が感極まった顔をする。

「…―――おい?」

「…関ちゃんっ、…―――!」

そっと引きながら、傍に白飯の碗を置いて逃れようとした関に。

 がっし、と抱き付いて永瀬が。

「関ちゃんっ、…――――!おれの嫁になろー?なっ?な?穴子の白蒸しじゃんっ、…これっ、…―――!しかも、軽くあぶってあるっ、…―――――!大好き!関ちゃんっ、…!」

「落ち着け、誰が嫁になるか!離さないと、これにあわせた吸い物くわさないぞ?」

「…―――ありがとう、関ちゃん、待ってるから」

途端に手を放して、椅子に座るとカウンタに両肘をついて祈るように両手を顔の前に組んでみせて。

 幾度も頷いて関をみる永瀬に、軽く背を向けて溜息を吐く。

「おれ、なんでこいつに飯出してやってるんだろうな?」

「…関ちゃーん、だめだよー!料理人を目指してるのに、定年退職後はめし屋を開くのが夢だろー?おれが常連客になってやるからー!」

「…―――絶対、頑固で客を選ぶ店主になる。絶対だ」

背を向けて、さらり、と海苔を炭火に焙って、吸い物の碗に。

「…うわー、…っ!関ちゃん最高!愛してる!」

「永瀬、この連中と付き合ってそーなるのはわかるが、おれにまであいしてるとか、そーいうのはいうな!」

「いいじゃん、感謝してるんだからー、…と、いただきますっ!」

「はやく食え。時間勝負だ」

「うんっ!…うまいっ!…―――焼海苔が吸い物に、…もう最高っ!」

実にうれしそうに騒がしく食べ始める永瀬に関が苦笑する。そうして、神原が驚きながらも、きちんと食事を終えていると。

「さ、どうぞ。デザートです」

「…関さん、ありがとうございます」

空いた皿を下げて、関が小さな高坏の器に半球に固められたゼリーのような白いヨーグルトにミントの葉とブルーベリーのソースを添えた一品を。



「美味しかったです。…本当に至れり尽くせりですね」

ありがとうございます、関さん、という神原に。

「いえ、ああ、車来ましたよ。また、いつでもどうぞ、神原先生」

微笑んでいう関に、神原が礼を云う。

「本当にありがとうございます。…滝岡先生?」

「滝岡で」

玄関から靴脱ぎを出て横の枝折り戸から姿を現した滝岡に驚いて神原がみる。

 それに微笑んで。

「こちらの方に道場があるんですよ。少し汗を流したいので。光をよろしくお願いします」

「あ、はい、…――そういえば、滝岡先生達は車では?」

先に車に乗っている神代の姿を確認して神原が云うのに。

「俺達は歩きます。時間もありますから。ですが、神原先生は歩いて来たことがないでしょう?光を連れて、知らない道を他所に行かせずに、この距離を歩くのは大変ですから」

「…―――それは、…はい」

しみじみと滝岡が云うのに、車に乗る光をみてうなずいて。

 そんな神原に、滝岡が笑む。

「では、気をつけて、また後で会いましょう」

「はい、…。それでは、ありがとうございます」

神原が光の隣に座り、車が出るのを滝岡が見送って。



「滝岡さん?」

「…―――神尾か」

暫くそのまま立って見送っていた滝岡に、そっと背から神尾が声を掛ける。ゆっくりと隣に歩み寄って。

「なあ、神尾」

「はい」

「…――――いや、ありがとう」

「何がですか?」

踵を返すと、それだけ云う滝岡に。

 そっと微笑んで、神尾が云う。

 それに、玄関へと歩いて。

「いや、…――――関達に挨拶して、戸締まりをして出よう」

「稽古はいいんですか?」

「…少し、ゆっくり歩こう。どうだ?」

振り向いて穏やかに微笑んでいう滝岡に、神尾が頷く。

「いいですね、少し、ゆっくりと」

「だろう?」

滝岡がゆったりと歩きながら、少し笑んで。

 それに神尾も、ふわりと応えて。





「で、そういえば、永瀬さん、滝岡さんの先輩なんですか?」

昼下がり。ぼけーっと平和に、たらん、と中継が始まるのを待って会議室の椅子にだらしなく座っている永瀬をみつけて、神尾が隣に座りながら訊く。それに、ぼーっとしたまま振り仰いで。

「かみおちゃん、…。こないだから、たきおかちゃんリサーチしてるの?どーして?」

ぼーっと無精ひげも顔色が悪いのもそのままにいう永瀬に、隣に座ってポケットから飴を取り出していう。

「永瀬さん、ちゃんとご飯食べてますか?お昼は?どうしました?」

「…―――わすれてた、…―――」

「……ちょっと待って下さい」

たらりん、と眠りそうになりながら、会議室のテーブルにつっぷす永瀬に少し険しい顔に神尾がなって。

 それから、何事か携帯を取り出して連絡するのを、まったく聞かずに永瀬が舟を漕いでいると。

「…先輩、…。神尾、連絡ありがとう。ほら、永瀬先輩、飯です。起きてください」

滝岡が、無造作に持ってきたトレイを永瀬の前に置いて眸を眇めていうのに、ぼんやりと永瀬が半分寝ながら目をあけていう。

「あ、…ごはんのはいたつだー、ありがとー」

「…先輩、患者さんの命を護る為にも、あなたが倒れていてどうするんです。…まったく、光もあなたも、少し目を離すとこれなんですから!いいですか?いますぐ起きて食事をしないようでしたら、僕が、…あなたを起こして、食事をとらせますが、いいんですか?」

すっかり滝岡を無視して眠りに入る永瀬に屈み込んで。

 にっこりと、人の悪い笑みを口許に湛えて滝岡が永瀬を覗き込む。

「っ、…―――滝岡ちゃんっ!」

「はい、永瀬先輩。給仕しましょうか?」

真っ蒼な顔で跳び起きた永瀬に視線を合わせて、にっこりと滝岡が微笑んでみせる。

「いかが致しましょうか?」

「…―――ごめん、ごめんなさい、はい、滝岡くん、僕が悪かったです、はいっ!…って、神尾先生も?」

にっこり、笑顔で見返す神尾におぞけを振るって、永瀬が無言でトレイから箸をとる。

「…う、うん、ちゃんと自分で食べられるからっ、ね?ね、滝岡ちゃん」

神尾先生も、といって食べ始める永瀬に、満足そうに前の席に座って、背凭れに腕を置いて永瀬をみてにっこり笑んでみせながら滝岡が。

「…先輩、…――栄養はきちんと摂ってくださいね?」

「う、…うん、食べてる、うん」

それから、滝岡が神尾に視線を向けて。

「神尾、ありがとう。先輩は、どうも忙しすぎると食事を抜くくせがあってな。…肝臓を切除しているんだから、食事を甘く見ずにきちんととってほしいとお願いしても中々難しいことがあってな。助かった」

腹に据えかねるものがあるように、にっこり微笑んでいう滝岡に、神尾もまた笑顔で頷く。

「それは良かったです。永瀬さんも、ちゃんと食べてくださいね?身体が資本ですよ?」

「うんっ、…!神尾ちゃんがいうとやさしーけど、滝岡ちゃんがいうと全然やさしくないー」

食べながら文句をいう永瀬を、冷たい視線で滝岡がみる。

「当り前です。おれはあなたの主治医ですよ?あなたに無駄に優しくしてどうするんですか」

「…つめたーいっ、…て、どうしたの?神尾ちゃん。そういえば、神尾ちゃん、おまえのリサーチしてるみだいだけど、どうして?」

永瀬が、味噌汁―!といいながら食べているのを、あきれて息を吐いてながめながら、滝岡がついでに訊く。

「そうなのか?神尾。…そういえば、前にも何か聞いてたが」

「まあ、リサーチというか、…。そういえば、永瀬さんは、滝岡さんの先輩なんですか?」

「…――知らなかったか?」

滝岡が不思議そうに神尾に向き直っていう。

「大学の先輩だ。といっても、大学で会ったことはなくて、主に部隊でだが」

「…―――部隊?それはその、」

驚いて見返す神尾に、滝岡が謝る。

「すまん、始まるようだ」

「…――あ、はい」

滝岡が正面に向き直る。

スクリーンに映し出された映像に、食事をしながら凝っと永瀬が視線を向ける。

 神尾と滝岡もまた真剣に中継される報告を見始めて。







「…永瀬先輩、家で引き取ってもいいか?」

「はい?…――ええと、家に、ですか?」

「ああ、あれはな、…。前から考えなくてはならないとは思ってたんだが」

苦い顔で歩きながらいうと、溜息を吐く滝岡に神尾が驚いた顔でみる。

 先の国際会議の中継が終わって、医局へ戻る為に歩きながら考え込むようにしていう滝岡に。

「つまり、…いま僕もお世話になっている滝岡先生の御家にですか?」

「ああ、…。部屋は他にも空いてるから、以前から考えてはいたんだがな。永瀬先輩は独身で、…―――あの通りの性格だから、いま住んでる部屋もな、…。食事は絶対に自分では作らないから、殆どこの病院か、関の世話になってるしな。…前から家に下宿してもらおうといってはいたんだが」

「断られてたんですか?」

神尾があっさりと訊くのに視線を合わせて沈黙する。

「…まあな、――。俺が口煩いのが嫌らしい。気持ちは解るんだが」

「そうなんですか、…でも、何故それを僕に?」

訊ねる神尾に、気が付いたように足を留めて見返す。

「…いや、一緒に住んでるだろう?おまえに迷惑を掛けるようならいかんからな、…―――やっぱり、まずいか?」

いってから、考え込むように口許に手を当てて眉を寄せる滝岡に神尾が笑む。

「まあ、それは、僕も助かりますけど」

「…神尾?」

神尾が滝岡に苦笑してみせて。

「…僕もあの様子をみていたら心配になりますから。食事とか、僕のでよければ少しお世話しようかと思ってたくらいなんです、…まあ、お節介なんですけどね」

微苦笑を漏らす神尾に、滝岡が天井を見て頭を掻いて云う。

「まあ、それはな、…。確かにお節介なのはおれも解ってるんだが、先輩には世話になってるからな、…―――」

ふう、と溜息を吐く滝岡に神尾が首を傾げる。

 滝岡が医局のドアを開けて入るのに着いていきながら。

「それなんですけど、…先にも聞きましたけど、先輩で、…部隊っていうのは」

神尾の疑問に、特に何を思う訳でもない風に、振り向いてデスクに置かれた携帯モニタを手に取りながら、滝岡があっさりと。

「ああ、…?自衛隊だ。永瀬先輩が自衛官、―――医官だったのは知ってるだろう?おれの部隊の先輩で、実地に出たときには上官だったんだ」

あっさり、さらりといって、デスクに座らずに連絡などをチェックしながら、カフェコーナーにいく滝岡を驚いて声も出ずに神尾がみているのに。

 首を傾げて、二人分のコーヒーを入れて。

「ほら、どうした?神尾」

「あ、ありがとうございます、…」

手に渡されたコーヒーを受取って、神尾がまだ茫然としていうのに首を傾げながら滝岡がソファに座る。

「…あの、その、…そうだったんですか?って、…自衛隊?」

「よう、呼ばれて来てやったぞ、正義!…神尾先生、どうしたんだ?」

コーヒーの入ったカップを両手に思わず持って、茫然としたまま神尾が入って来た神代に自動的に答える。

「いえ、その、…滝岡先生って、その、…永瀬さんの後輩、というか、自衛官?え?」

「何を驚いてるんだ。正義は防衛医大出身だろ?神尾先生、知らなかったのか?」

茫然としたまま、神尾が無言で幾度か頷くのに神代光が首を傾げて。

「そんなに不思議か?正義が自衛官だったのが?」

「はい、あの、…あ、神原先生、お久し振りです」

「こんにちは。この間はごちそうさまでした。僕も知りませんでしたよ?滝岡先生、防衛医大を出られたんですか」

神原がココアを神代に渡して、うれしそうに受取って神代が滝岡の隣に座る。それをみて、自分もコーヒーを手に滝岡達の向かいに座る神原に。

チェックしていた視線を上げて、滝岡が淡々と頷く。

「はい。…意外ですか?」

「いえ、あの、…すみません、驚いて。でも、何て云うか、…――」

訊ねる滝岡に、立ったまま両手にカップを持って、神尾が滝岡に。

「…あの、どうして、防衛医大に?自衛官って、確かに、身体鍛えるのはお好きですけど、」

驚いている神尾を見あげて、不思議そうに滝岡が云う。

「そんなに不思議か?家は金がなくてな。防衛医大は、学費がタダな上に、寮があって泊る処があって食事が出て、しかも給与までもらえるんだぞ?さらに、外科医は身体が資本だが、身体を鍛える訓練もできる。最高だろう」

「ええと、その」

「勿論、卒業後九年間は勤めなければ、学費を返還する義務が生じる。だが、おれはそれで構わなかったんだ。元々、艦医になりたかったしな」

ひとつくちを結んで、頷いていう滝岡に神尾が聞き返す。

「艦医、ですか?」

「そうだ。海の上に出て、艦医になる!男のロマンだろう?それを、…邪魔しやがって!」

「…邪魔、ですか?誰が?」

さらに驚いて訊いている神尾に滝岡が腕組みをして頷く。

「院長だ!おじさんが、…当時、おれの後見人をしててな、…―――。学費を勝手に払って、その上、本人の意思に関係なく、除隊することにしてしまってたんだ、…!」

「え?それは」

完全に目を丸くして驚いている神尾に腕組みしたまま深く頷く。

「おじさんが、勝手に全部手続きしてしまったんだ。おれは、艦医になる為に、潜水医の資格も取ったっていうのに、…!人生を勝手に動かしやがって!」

「滝岡先生、くちが悪いです、…って、え?勝手に、支払い、手続き、ですか?」

「そうだ。…その上、その後は、勝手に人を六年も、日本各地や海外へ修行に行かせてな、…」

腕組みして怒りを思い出すように頷いている滝岡に神尾が聞き返す。

「修行、ですか?」

「そうだ、修行だ。各地の病院や大学とかにな、…。専門性の高い病院に、外科の修行に回らされてな、…―――」

「は、はい、あの、…」

「その後は、此処へ戻って、…―――まあ、おまえも知っている通り、あの院長の後始末をして回っている。何か質問は」

神尾を見あげていう滝岡に無言で首を振る。

「よろしい。神尾、そこに座ってくれ。立っていると話辛い。光に神原先生に此処に来てもらった理由だが、…――」

病院業務の合間を縫って、簡単に打合せを始める滝岡にあきれながらも半ば感心して神尾がみてから。





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