恋だ愛だは品切れ中

ろくろわ

そこにあるけど売れないんだよなぁ

「大変申し訳ございません。そういう訳で他言無用でお願いします」

 そう言って電話を切るや否や、また鳴り出す呼び出し音に秋吉あきよしはため息をついた。

 それもこれも本日のみ売り出された目玉商品。『恋』や『愛』を買い求める人が多くて、あっという間に売りきれてしまったことが原因だ。この『恋』や『愛』は比喩などではなく、あの『恋』や『愛』なのだが、まさか、こんなに売れるなんて全く予想していなかった。

 秋吉は頬を叩いて気合いを入れると、俺の話を聞いてくれ!と言わんばかりになり叫んでいる受話器を取り上げた。

「はい、もしもし。こちらあやC本店お客様相談担当の秋吉です。はい。はい。あぁ~大変申し訳ございません。ただいま『恋』は大変人気で品切となっておりまして。はい、はい。実は『愛』もまた人気でして。はいはい、つまり恋だ愛だは品切れ中となっております。えっ?どうにかならないかですって。分かりました!それでは店頭用に保管しているものをお売りしましょう。ただ此方、いつも当店をご利用のお客様だから特別に手配しますので、大変申し訳ございません。そういう訳で他言無用でお願いします」

 秋吉は深々と頭を下げると、電話を切った。

「しかし恋だ愛だなんて、目に見えないものを買ってまで手に入れようって、皆は何を考えているんだろうな。こんなもの、わざわざ買わなくてもいくらでも手に入れることが出来るのに。皆、すぐ近くにある恋も愛にも気がつかないもんなんだよなぁ」

 商品棚に並べられた中身の無い『恋』だ『愛』だと書かれているからの箱に先程、注文頂いた方の住所を書きながら秋吉はため息を着いた。一層のこと、恋だ愛だは品切れ中って言われた時に引き下がれる人の方が幸せなのかもな。

 秋吉の元には、再び愛がほしい。恋が欲しいと電話が声を上げている。

「はい、もしもし。こちらあやC本店お客様相談担当の秋吉です。恋や愛のお問い合わせですか?こちら大変人気の商品でして、恋だ愛だは品切れ中となっております。えっ?どうにかなら中ですって?そうですねぇ。それなら………」



 了

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恋だ愛だは品切れ中 ろくろわ @sakiyomiroku

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