第6話 無双のホイッスル

 相変わらず俺の魔術の成績は最下位だ。一方、剣術の授業では……。


「それでは、剣術の授業を開始する。今から呼ばれる通り、二人一組となり、所持している剣で手合わせをするように。相手に傷はつけられないよう、保護結界を適用する。また、試合の様子は魔術具に録画させ、後ほどフィードバックをする。くれぐれも気を抜かないように」


 俺がペアを組むことになったのは、いつも俺のことを馬鹿にしてくる、アリスティード・エクレールだ。抜剣の儀の一件で、俺への嫉妬からか、以前よりも増して当たりが強くなったような気がする。

 最悪だ。また何を言われるかわかったもんじゃない。

 だが、評価ありの授業なので、仕方なく剣を抜いた。また3つの魂が待ってましたとばかりに喋り出す。


『まったく、いつになったら出してくれるのかと思っていたわ。遅すぎよ。で、今日はこいつを倒せばいいのね?』

「倒すのはダメだ。そもそも今回は評価のための手合わせにすぎない。お互いに傷つけないように保護結界が張られている」

『えー? じゃあウチらはどうすればいいの?』

「はぁ……俺の剣術向上に協力してくれ」

『我が主の剣の腕が磨かれるなら本望。わたくしのすべての力を使いましょう』


 俺が小さな声で剣と会話をする様子を見て、アリスティードは気味悪がっている。それもそうだろう、普通、剣と会話などしないものだ。

 だが、俺の剣は厄介なのだから、仕方がない。許してほしい。


「試合開始!」


 笛の音が鳴り響き、あちらこちらで一斉に剣が交わる音が聞こえる。もちろん、俺とアリスティードも例外ではない。

 エクレール家は代々雷属性の剣を所持する名家。アリスティードも例に漏れず、雷の魔物を宿した剣を抜いたようだ。早速剣同士を通じて電撃が俺の方に伝わってくる。結界のおかげで傷つきはしないが、衝撃が緩和されるわけではない。


「お前の奇妙奇天烈な剣と比べたら、俺様の美しく輝く電撃がますます映えるなあ。なあ、そう思うだろう? 落ちこぼれのレイ・メラン?」

「ああ、そうかもな!」


 俺は適当に返事をしながら、アリスティードの振る刃を交わしていく。そして、勝手に剣が動いて反撃を喰らわしてくれる。

 アリスティードはまだ喋る余裕があるようで、何かと俺を貶す発言を繰り返している。だが、それ以上に剣の声がうるさくて、アリスティードに応える余裕がなくなっていく。


『レイ? あんた本当にのろまね。もっと素早く動けないのかしら?』

『主の運動能力は平均レベル。わたくしたちがリードして差し上げなくてはならないのです』

「うるさいなぁ、仕方ないだろ!」

『ウチは早く攻撃しかけられればなんでもいいよ?』

「なんでも良かねえよ! もっと慎重に動け!」


 いつの間にか俺の剣から放たれた炎・氷・雷の連携攻撃による大きな衝撃を受け、彼は全身の痺れからか片膝をついてしまった。


「おめえの剣はとてつもなくうるせえよ……くっそ、なんで落ちこぼれに負けるんだ! ふっざけんな!」


 アリスティードはそのまま地面に拳を叩きつける。名家の令息が、稀に見る落ちこぼれに負けたことでプライドがへし折られてしまったようだ。

 俺たちの結果を知り、また剣術講堂内がどよめく。


「どうせ不正でもしたんだろ! お前なんかが俺に勝てるわけがない。だいたいなんで剣の魂が話し合ってんだよ!」

 

 ――いや、俺が教えて欲しいくらいだよ。うるさくて俺だって迷惑してんだ。

 ここ数日で何度目かわからないため息をついた途端、剣から3色の光が飛び出して、影が地面に降り立った。俺は自分の目に映っているものが信じられず、何度も瞬きを繰り返す。


「まあ、あたしが力を貸したんだから、当然の結果よね!」

「いいえ、ロザリア。あなただけの手柄ではないでしょう。全員で力を合わせて手に入れた勝利であることをお忘れなきよう」

「終わったことなんだし、なんでも良くない? それより、ねえねえ、魔物の具現化はウチらしかしてないらしいよ?」


 ――俺の目の前には、3人の美女が立っていた。

 ひとりは赤髪のポニーテール。細身スレンダーの格好いい系美女だ。吊り目が人を見下している感じがして、いい。

 ひとりは白銀の長髪を下ろしている。清楚で知的な感じがプンプンしている。これは理詰めでこられそうで、いい。

 もうひとりは金髪のボブ。笑顔がかわいらしく、身長が小さいのもまたかわいい。素直で単純そうで、いい。

 え、こいつら、誰?

 白銀美女がもう二人を促し、3人は片膝を立てて俺の前に並んだ。


「わたくしたちはレイ・メラン様にお仕えする剣の魔物。わたくしは氷を操るスティーリアでございます。以後、お見知りおきを」

「ちょっ! なんであんたが先に挨拶するのよ! あたしが一番最初でしょ? 炎のロザリアよ。ロザリア様とお呼びなさい?」

「ウチは雷担当! ラディアっていうんだよ! よろしくね、レイ!」

「ロザリア、ラディア。お仕えする相手になんて無礼な。もっと慎み深さというものを……」


 ――俺は本当に、なんていう面倒な剣を手にしてしまったんだ……。いや、全員美女だし、いいか。前向きに……なれるか! 目立ちたくないって言ってるだろ!!!

 周りは呆気に取られている。俺だってそうだけど。


「俺はレイ・メラン。こんなに素敵な魂に囲まれて嬉しいよ。ところで、お前ら、目立ちすぎだから、頼むから静かにしてくれ。俺をこれ以上目立たせないでくれ……!」


 両手を合わせてお願いする。


「無理ね」

「難しいでしょう」

「えー、喋りたい!」


 ――俺、落ちこぼれのままの方がまだ良かったかも……。

 はちゃめちゃ無双学園生活が今、始まる。

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学園最下位の俺が抜いたのは、三つの魂を宿す規格外の《ケルベロスの剣》でした。 泉紫織 @shiori_izumi_89

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