第4話 なんで俺、教官と戦わされてんの?

「仕方がない。私が相手をしよう」


 厳しいことで有名な剣術の上級教官が戦闘場に上ってくる。土属性のベテラン剣士だと聞いたことがある。


「レイ・メラン。君の剣は特別なようだ。魔術具ではランクの測定は不可能だろう。手加減はしなくていい。私に全力で切りかかってこい。私が測定しようではないか」


 想定外の出来事に、ギャラリーができてしまっている。

 やめてくれ、もうこれ以上目立ちたくないんだ! というか、こんなに威厳のある、強い剣士と戦いたくない。殺されてしまう。逃げたい、嫌だ……。というか、なんで見てんだよ、みんな自分のやるべきことに集中しろよ……。

 だが、周りは興味津々で、誰も逃げさせてはくれなそうだ。そして、何より剣の中のやつらが……。


『へえ、ベテラン剣士ですって? やるしかないわね。勝ち以外の選択肢はないわよ』

『相手にとって不足なしです』

『すごい人なんだね! そんな人に勝っちゃったらさ、ウチらはもっとすごいってことだよね?』


 俺はすべてを諦めて、所定の位置に立つ。教官とタイミングを合わせて礼をする。

 剣を構えると、すぐに剣が勝手に動き出す。俺はそれについていくのに精一杯で、何が起こっているのかを理解するのがやっとだ。

 流石は教官。俺の一振りを華麗に交わすと、木刀で真剣に対応してくる。

 俺の剣術は凡庸も凡庸なのだ。教官相手にまともに戦えるわけがない。早く負けて終わりにしよう。

 そう思っていたが、なぜか剣が次々に攻撃を繰り出していく。炎と氷、雷を組み合わせた多様な攻撃が生み出される。

 教官は魔法を使って攻撃を防いでいるが、防戦一方になり出した。


『早くアレ使っちゃおう?』

『嫌よ! あんたたちと協力なんて死んでもしたくないわ』

『まだ早いでしょう。もう少し機を伺わなくては』


 ――いや、アレってなんだよ! せめて俺には説明してくれ……。

 だが、剣の中の魂たちは一切俺に容赦ない。なんの説明もなしに、どんどんと戦いを進めていく。俺はただ剣に連れて行かれるがまま、手足を動かしているだけだ。操り人形のように。

 ふと、こちらの攻撃が止まる。3人の話し声もパタリと止んだ。その隙を見計らったかのように、教官が素早い突きを繰り出す。するりと剣が動き、その瞬間、魔力の重圧が全身にのしかかったような気がした。負けた――そう思った。

 赤、青、黄の光が回転しながら目の前の木刀を、切先から破壊していく。俺はすんでのところで、突きを喰らわずに済んだのだ。

 木刀は跡形もなく崩れ落ち、教官は両手を挙げて降参の意を示した。


「嘘だろ……」

「木刀と真剣とはいえ、あの上級教官を」

「なんで落ちこぼれのあいつが!」


『やはり、わたくしの言ったタイミングで打つのが最適だったと言えるでしょう』

『もっと早く打っていた方が良かったに決まってるでしょ! レイの運動神経は普通なんだから、あの突き喰らっててもおかしくないわよ。偉そうにしないでちょうだい』

『めちゃくちゃ楽しかったー! 戦ったの久しぶりだし! 本当はもっと早く片付けたかったけど!』


 俺は状況を理解しきれず、呆然と立ち尽くすしかなかった。

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