第1話

 中等部の全校集会が開かれるため、生徒たちが体育館に集まっているが、すべての生徒がここに来るまでに時間がある。その間を埋めるように、おのおのが声を絞りながらしゃべっている。

 紀州嵐もまた、その一員として巻き込まれた。


 「魔法少女って信じる?」


 クラスメイトとの会話の中で、話題として振られた。


「なにそれ?」


 できる限り、無関心そうに答える。

 本当ことを知っているし、実際に助けられた。

 けれど、正直なことをいって、頭がおかしい奴と思われるのはイヤだ。


『空気読んでくれない?』

 

 一瞬、小学生の頃にいわれたことが、脳内をリフレインする。


 頭を小さく左右に振って忘れる。

 都市伝説は信じないで、共有するくらいが楽しい。


「これなんだけど」


 目の前の金子がスマートフォンをグイっと嵐の鼻先に突き付けて、画面を見せてくる。


 無断転載を繰り返したであろう解像度の低い画面には、鷲のように大きな、けれど、無機物のような灰色の翼を持つ天使が映っていた。


 幻想的で、優雅に空を飛んでいた。ゆっくりと下降しながら、地面に降り立とうとする。残念ながら、映像には降り立つ瞬間は電車の車両が邪魔になって見えない。


「これが?魔法少女?」


 鼻で笑っている雰囲気を出しつつ、無関心を装う。本心ではこんな魔法少女もいるのかと思った。


 魔法少女といったら、リボンやレースのたくさんついたかわいい服を着て、正義の味方として悪と戦う。けれど、画面に映っているものは、かわいい要素はなく、正義の味方かどうかわからない。


 あのときの少女は、正義の味方だろうか?彼女自身は、そういっていた。


「少なくとも、女の子みたいだし、AIの判定でも編集された形跡はないってネットでいってた」


 どこまで信じているのだろう。


 金子の扱い的にはいるのかいないのかが問われているUFOや、UMAに近い。嵐も実物を見なければ、確実に信じないだろう。


 彼女は他の画像や動画も見せてくる。日本刀を持ち、大正時代の軍人のような服を着た少女が居合で雑木林の何本もの木を切り倒している。動画では日本刀には一切触れていない、数メートルも先の木が、スパっと切り倒されていた。


 マンションの2階に届きそうなほど大きなリボンを4本足のタラバガニのように使いながら移動する、灰色のドレス姿の少女。大きなリボンがに命が吹き込まれているようだが、対照的に少女自体は人形のよう。


 どれも、フィクションで見かけるような魔法少女ではなかった。


「どこが魔法少女なの?」


「人知を超えたことしてる、女の子だからじゃないの?わっかんないけどさぁ」


 嵐が見た少女も、魔法少女というよりも、女騎士という方が近い。意外と、そんなものかもしれない。



「まぁ、映像だから、半々?」


「どれも、桑都で撮られたんだってさ」


 東京西部に位置する町――桑都。江戸時代では生糸産業で栄え、今ではベッドタウンと学生都市としての顔を見せる。嵐の生まれた町でもあり、この学校も桑都の中心部である。


「へぇ……。この辺じゃなさそうだけど」


 画面に映っていた場所に心当たりがなければ、嵐の地元でないことは確かだ。


 出身地とはいえ、桑都すべてを知っているわけではない。どこでとられたものなのかは、見当もつかなかった。


 スマートフォンに映っている映像は変わっていて、今度はピンク色の少女になっていた。王道の魔法少女らしいコスチュームだ。けれど、カメラが大きくぶれてしまったため、一瞬映っただけで、映像からは消えてしまった。


「でも、すごいよね?ホントにいたら」


 首を縦に振った。

 すごいのは確かだ。




 「次は表彰式を行います」


 全校集会はトラブルもなくつつがなく進行している。興味もない話を延々とされてうんざりしていたが、『表彰式』と聞いて嵐は苦虫をつぶしたような顔をした。スカートの裾の強く握る。


「え~。先日あった、関東中学陸上大会にて、入賞した――」


 さっきよりも小声で話しかけれれる。


「あれでしょ?」


 金子が指を指した方向を見ると、同じクラスの生徒ひとりが名前を呼ばれ、立ち上がっていた。


「伊達さん。陸上部で頑張ってたもんね」

 伊達美凪だてみなぎは体育座りをしている生徒の間を小声で謝りながら、通り抜けていく。


 伊達さんが頑張っていたことは知っている。尊敬もしている。


 そのうえで、嵐は祝福できる気に全くなれなかった。目の前のクラスメイトがうれしそうなのを見ていると、余計に自分の小ささが目立って――自己嫌悪に陥る。


 伊達さんが壇上に上がる。賞状を受け取り、一礼する伊達さん。


「伊達さんはこの後、1か月後の7月に行われる全日本中学校陸上大会選手権に参加することが決まっています。伊達さんの成績と今後の健闘にもう一度拍手を送りましょう」


 副校長がいった。まばらな拍手が伊達を包む。嵐は3回だけ軽く手を叩いた。感情が乾いた音しか出ない。


 なんでなんだろう。


 なんでわたしにはこういう、特別なものがないんだろう。

 誰だって、輝く権利くくらいあったっていいのに。

 伊達さんが自分のいた場所に戻り、冷たい体育館の床に腰をおろす。

 それを見ているだけで、嫉妬の渦に飲み込まれるのは、心が狭いから?


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2026年1月3日 21:00
2026年1月4日 21:00
2026年1月5日 21:00

魔法少女、紀州嵐は主人公ではない 愛内那由多 @gafeg

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