第2話
第2話:バレンタインの危機と、台所の指揮官
今日もまた、冴えないモブキャラとしての役割を全うする一日が始まった。 隣の席の早見レナは、相変わらず鋭い睨みで周囲を威圧している。今日の彼女の制服はいつも以上に身体に密着しており、そのS級のわがままボディ――特にFカップの双丘は、決壊寸前のダムを守るボタンたちと死闘を繰り広げていた。
「……アンタ、何か言いたいことでもあるわけ? 雨宮」
俺は最高のモブスマイル(を装った引きつり顔)で、慌てて視線を机の上に落とした。
「す、すみません早見さん! すぐ目を逸らします!」
レナは「チッ」と短く舌打ちをして、顔を背けた。 今日の彼女は、いつも以上に苛立っている。昨日のダンス練習でミスをしたのか、それとも新しいグループに追い抜かれる不安があるのか、あるいは事務所のマネージャーと揉めたのか。
思考を巡らせる俺の体内に、あの馴染み深い感覚が走り抜ける。視界が赤紫色の光に染まり、周囲の時間がスローモーションへと変わった。
【スキル:絶対神眼(アイドル覚醒)――解析モード】 事象:異常な身体言語。 結果:情動の乱れを検出。 症状:呼吸の乱れ、微かな発汗、頬の紅潮、動作の硬直。 精神状態:負の連鎖(スパイラル)に突入中。 深刻度:管理可能レベル。
モブモードに意識を戻した直後、机に軽い振動が伝わった。レナが俺の机の脚を、苛立ちをぶつけるように軽く蹴ったのだ。
そして、周囲のクラスメイトたちが退屈な雑談に興じている隙に、一通のメモが滑り込んできた。
俺はそれを、慎重に開く。
『湊、信じられない。昨日、事務所の人に言われちゃった(泣き絵文字×2)。次のプロジェクトが失敗したら、新曲のセンターから外すことも考えてるって。プロデューサーさん、お願い。今日の放課後、練習に付き合って……!』
(やれやれ……) どうやら、本格的な「メンテナンス」が必要なようだな。
――数時間後。 俺は「推しアイドル」の家のリビングで、山積みになった宣材写真(ボツ案)をスクロールしていた。
「……事務所が不満を抱くのも無理はないな。俺も一人のファンとして、これに金を出したいとは思えない」
俺の辛辣な言葉に、レナは顔を真っ赤にして俯いた。
「レナ。制服を脱げ」 「……はあぁっ!? あんた、何言って……!」 「ここじゃなくて、部屋で着替えてこいと言ったんだ!」
レナは顔を爆発しそうなほど赤く染め、リビングを飛び出して寝室のドアを乱暴に閉めた。 (危なかった。危うく理性が飛ぶところだった……。いくらプロデューサーでも、制服を脱げは言い方が悪すぎたか……)
俺の心臓は、警報機のように激しく鼓動していた。 もし、くるみちゃんの次のフォトブックが五万部売れなければ、彼女のセンターの座は危うい。
思考を整理していると、部屋から「くるみちゃん」が姿を現した。 黒髪の姫カットに、純白のワンピース。
「……この衣装で、いいのかな。プロデューサーさん」
彼女はキッチンへ歩み寄ると、パステルピンクのエプロンを身に着けた。そしてキッチンカウンターに身を乗り出す。 さらしを解かれたFカップが、まるで出来立てのプリンのような弾力を持って、カウンターに押し潰された。
「……よろしく頼むわね。湊……プロデューサー」
体温が上がる。鼓動が加速する。 俺は一歩、彼女へと歩み寄った。床板が小さく軋む。
「レナ。こっちを見ろ」 「……え? 湊……っ?」
俺は手を伸ばし、彼女の顎をクイと持ち上げた。 そこにはもう、情けない「モブキャラ」の姿はない。
パチン、と指を鳴らす。
【スキル:絶対神眼(アイドル覚醒)――起動】
キッチンが紫色のワイヤーフレームの海に消えた。 赤く染まった頬の熱量。震える肩の緊張ベクトル。彼女の姿勢に含まれる、コンマ一度の狂いまでが可視化される。 俺の瞳は、威厳に満ちたマゼンタ色に輝いた。
「視覚解析完了」 俺の声は、狭いキッチンを震わせるほど冷たく、深い響きを帯びていた。 「『彼女』を演じようとするな、レナ。それが最大の間違いだ」
「み、湊……? その目、その声……」
彼女は震えていた。だが、それは恐怖ではない。 俺の「指揮官」としての顔に射すくめられ、その青い瞳に熱を帯びている。
俺はさらに距離を詰め、彼女が必死に隠してきたFカップに、俺の胸が触れるほど密着した。
「今この瞬間から、一切の演技を禁ずる。ただ、俺の指示に従え。俺が貴様を、日本で最も望まれる女にしてやる」
彼女の魂を覗き込むように、紫色の眼光を強める。
「バレンタイン・ミッションを開始する。……俺に任せろ」
最後まで読んでいただきありがとうございます! 湊の「絶対神眼」がついに本格始動……。早見さんのギャップ、楽しんでいただけていますでしょうか?
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クラスの恐ろしいギャル、実は俺の推しアイドル(清純派)。オタク知識でプロデュースして武道館に連れて行くはずが、なぜか「秘密の特訓」は毎晩ベッドの上で終わる件 @ren-dreaming
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