DEATHたこ焼き モダンホラー集 イ

DEATH たこ焼き

お経?

 私が住んでたアパートは昔、人が死んだらしくて、いわゆる事故物件と呼ばれてたんだよね。


 築年数は50年以上あって、床は軋むし、壁からは隣室の音は漏れるし、風呂トイレは付いては居るけど、北側にあるせいで昼間でも薄暗くて、常にジメジメしてて、下水の臭いが漂ってる。


 誰が見ても気味が悪くて、事故物件じゃなかったとしても、『この家、事故物件なんだよね』と言えば、誰もが『でしょうね』と言う程、いかにもな事故物件。実際人が死んでるしウソじゃないんだけどさ。


 でも私はこの家で幽霊を見た事ないし、古い家だから、何かが軋む様な音がしても、コツコツと叩く音がしても、隣の部屋の音が聞こえてるだけ。木造建築だから家鳴りの音が聞こえるだけ。って、全部『古い家』ってだけで説明が付くんだよね。


 たまに金縛りに会う事があるけど、それも忙しかったりして疲れが溜まってる時に限ってだから、金縛りの感じもかなり薄い。


 ただ、その金縛りの時、たまに声が聞こえる。


 初めて気付いた時は隣りの人のテレビか何かの音が聞こえてるだけだと思ってたけど、そうじゃない。


 なんでそう思ったかって言うと、テレビにしてはテレビっぽくないというか、お経みたいな、平坦で淡白な声でずっと何かをブツブツ唱えてる。


 引っ越してきた時こそ怖かったけど、それ以上に家賃の安さは価格破壊って言っても良いくらいだし、事故物件であることも知らされてたから、それくらいは覚悟してた。


 それに声が聞こえるだけで、実害も無かったから、ひと月もすると無視出来ちゃたんだよね。


 で、気がついたら更新を時期になってたから、もう住んで2年は経っててさ、引っ越そうかどうか迷ってる時だったんだよね。


 怪現象には慣れたし、なんとなく説明はつくから、今となってはそれほど怖くも無い。

 なによりこの家賃の安さは魅力的だし、もう少し住んでも良いかなとは思うけど、やっぱりネックなのは、この悪臭とブツブツ呟く声。


 あの日の夜も、なんとなく引っ越しをするか更新をするか迷いながら布団に入って、ウトウトしてると、いつもの金縛りに会って、声が聞こえてきた。


「結局この声はなんて言ってるんだろう?」


 これまでも声を気にした事はあったけど、そんなにマジメには聞こうとはしなかった。


 もうすぐ引っ越すかもしれないし、と思い私は意識を声に集中してみたけど、まぁ、やっぱり何を言ってるかよく聞こえない。


 だんだん瞼が重くなってきて、あ、もうすぐ寝そうだな、と思った時にハッキリ聞こえた。


「死ィねェ 死ィねェ 死ィねェ」って。


 何度も何度も、ゆっくり、確実に、私に向かって、


「死ィねェ」って言ってる。


 全身がゾワゾワってして、私はすぐに部屋の明かりを付けたけど、声はしない。


 天井に吊るされた古くて丸い蛍光灯が部屋を照らすんだけど、誰も居ないし部屋に居るのは自分だけだなって、安心してたら今度は耳元で、生ヌルい息がかかるくらいの近さで、お腹に響くような声で囁かれたの。


「死ィねェ」って。


 無機質で感情は無い。でも、やっぱり確実に、意識は私に向いている。


 お経みたいな声はテレビの声でも、ましてやお経でもなかった。


 『あ、これ反応しちゃダメなヤツだ』って思ったから、声を無視して一回台所で、水を飲もうとしたんだけど、手が震えて飲めなかった。


 その間もずっと耳元で「死ィねェ」って言われるから、それ以上声を聞かないように、イヤホンをして寝た。


 数日後、私は迷わず引っ越したのだけど、あの声がイヤに耳に焼き付いちゃって、今でもたまに耳元で囁かれてる気がする。


たぶん、気のせいだと、思う、けど・・・。

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