第2話

彼は、人呼んで“ウルトラさん”。

またの名を“対岸の火事を消しに行く男”。

しかし、“消す男”とは言われてない。


今度の事件は自治会トラブルだ。

隣町に住む彼には、全く関係ない。


「私が行くしかないようだ」


隣町に知り合いはいない。

しかし、彼は自分のことのように真剣な顔でつぶやいた。


彼はまたウルトラスーツに袖を通す。

さっきまで着ていたので、すんなり入る。


彼には時間がない。

仕方なくタクシーを使うことにした。



---


現場に到着すると、話し合いは紛糾していた。


「だから、昔からの決まりなんだよ!」

「そんなの僕らには関係ないでしょう!」


ウルトラさんは、公民館の入口の前で静かに聞き耳を立てていた。


 深刻度:大

 介入リスク:大


これは――部外者には何もできないタイプ。


それでも、彼は行く。


「デヤッ!」


またもや意味不明な掛け声とともに、ウルトラさんは入口の引き戸を開けた。


「えっ、誰!?」

「デヤッて何!?」

「安心してください。私は――

 対岸の火事を消しに来た者です」


名乗ってみたが、やっぱり理解されない。


「みなさん、議論が熱くなりすぎています」

「はあ」

「このままでは、話が混乱してしまいます」


みんなは彼に混乱している。


ウルトラさんは胸のランプを叩いた。

タイマーが作動する。


(残り二分五十秒)


「では、鎮火します!」


彼は両手を広げ、叫んだ。


「話し合いましょう!!」


一同、ぽかんとした顔で彼を見た。

話し合いの邪魔をしているのは彼だ。


「……」


(残り二分三十秒)


「だから、誰だお前!」

「部外者は出ていけ!」


ウルトラさんはつまみ出された。


(また失敗)


しかし、彼はすぐに立ち上がる。

これくらいは失敗のうちに入らない。


(作戦変更だ)


今度はゆっくりと引き戸を開いた。


「……失礼します」

「また、あんたか!!」

「自治会の目的とは何でしょうか?」


一瞬、沈黙が落ちた。


「何だ急に、面倒くせーやつだな」

「まあまあ、今日はこの辺で解散ってことにしませんか?」


(そうか、そっちか)


ウルトラさんは静かに続けた。


「そうです。一旦持ち帰りましょう」

「えっ? いや、まあ……」

「そう、明けない夜はないのです」


みんな互いに顔を見合わせた。


「……何か、疲れましたね」

「続きをやる気力も、もうないな」


(鎮火成功)


胸のランプが点滅を始めた。


(残り三十秒)


「では、私はこれで」


「ちょっと!」

自治会長さんが呼び止めた。


「あんたは一体?」


ウルトラさんはニッコリと微笑んだ。


「……通りすがりの、隣町の住人です」


そう言って、彼は走り去った。


帰り道、彼はコンビニで缶コーヒーを買った。(本日二本目)

糖分の摂り過ぎは身体に良くない。


彼は誰からも感謝されない。

SNSにも載らない。

拍手もない。


だが、それでいい。


彼は知っている。

部外者が口を出しても、何の解決にもならないことを。


それでも――

行ってしまうのだ。


ウルトラスーツを脱ぎながら、彼はつぶやいた。


「今日もよく働いたな」


迷惑極まりない男の日常は、まだまだ続く。

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2026年1月3日 08:00
2026年1月4日 08:00
2026年1月5日 08:00

対岸の火事を消しに行く男 ウルトラさん haru @koko_r66-haru

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