正暦244億年 蠱毒イベント関係の続き
明日のつもりが七日経ったがまあ、誤差の範囲だろう。
で、サルエンの奴だ。
親しげに声をかけてくる優男がいて、内包する我力はなかなかのものだったけれどなんか隙だらけで、ちぐはぐな感じがするなと思ってたら、「あの時はお世話になりました」と頭を下げてきたのだ。
「えー。誰」
「サルエンです。僕に生き残り方を指南して下さって……」
「うーん」
俺がそんな親切なことをするかなあ、と考えていると、サルエンはニコニコして付け足した。
「蠱毒イベントですよ。もう百年以上前ですけど。あなたは緊張してた僕にアドバイスしてくれたんです。とにかく最初は隠れてろって。それから、あなたが殺して獲得した分の我力を私に譲って下さいました。そのお陰で、僕は蠱毒の最後の勝者になれたんです」
「ふーん……ああ、あの時のガキかあ」
それでやっと俺は思い出すことが出来た。
「はい、あの時のガキです。当時は名乗りもせずに失礼しました」
「まあそれはお互い様だろ。しっかし一般人の身でよく勝ち残ったなあ。我力譲られたっていきなり強くなれる訳じゃないだろ」
「いやあ、ですから師匠の教えの通りに、とにかく隠れることに集中したんです。それで近づいた敵をグサリ、また隠れて、近づいた敵をグサリ、て感じで。凄く頑張りました」
「はあー」
真面目というか、よく分からんが、まあ頑張ったのだろうな。俺はちょっと感心した。運も良かったのだろうけれど。
って、今変なこと言わなかったかこいつ。
「という訳で、優勝するまで十四年かかりました。最後に残った相手が強いのに慎重なタイプで、持久戦になっちゃって」
「そりゃあ長かったな。それでも勝ったんだから大したもんだ。……で、俺に何か用かい」
人間には色々いる。一気に成り上がって増長した奴が、途中で抜けた俺を殺すことで蠱毒を真の意味で完成させたいと考えたとしても、別におかしくはない。サルエンに殺気は感じられなかったが、そういうこともあり得るとは思っていた。
だがサルエンは相変わらずニコニコして言った。
「とにかくお礼が言いたかったんです。師匠のお陰で生き残れましたしカイストになれましたから」
「いや、その師匠ってのはやめてくれねえかな。一言アドバイスして、行き場のない我力を譲っただけだから。ただの気まぐれさ。誰かを指導して育てるなんてのは、俺には重過ぎる」
「これは失礼しました。師匠に迷惑をかけるつもりはありませんでした。ただ、やっぱりあなたは僕の心の師匠なんです」
「そうかい。まあ、いいさ。ここの飲み代を奢ってくれよ。それで貸し借りはなしってことにしようぜ」
師匠呼ばわりされ感謝されることに俺は居心地悪さを感じつつ、そうやって気軽に流した。
サルエンは了承し、同じテーブルで飲み食いしながら話をした。
蠱毒イベントで一般人が勝利するのはあり得ないことではないがかなり稀で、運営はサルエンに「カイストの心得」みたいなことをそれなりにアドバイスしてくれたらしい。急な成り上がりは落ちるのもあっけないから今後も地道に修行した方がいいとか、強くなったからといって他のカイストに喧嘩を売りまくるのは控えた方がいいとか。
取り敢えず百数十年経ったが今のところ死にもせず、肉体の衰えもないという。ただ、故郷に戻ったが化け物扱いされるし妬まれるしで結局すぐ出ていくことになったらしい。元々はイベントに参加すると息巻いていた村の荒くれ者が寸前で怖じ気づき、皆に面白半分で背中を押されて参加させられたのだという。
素直というか、流されやすいというか馬鹿というか。まあ俺が他人のことをとやかく言うつもりはないし権利もないが、ついまたちょっとばかりアドバイスをしてやった。
「今お前はAクラス相当の力を持ってるけどな、必ず落ちるぞ、それ。だから落ちることは覚悟の上で、そっからまた努力して強くなるんだな。一度Aクラスだったって記憶は、そうだな、予約チケットを持ってるみたいなもんだ。多分他の奴らよりはAクラスに返り咲くのも早いと思うぞ」
俺の適当な言葉に、サルエンは顔を輝かせてまた礼を言っていた。
と、いうのが、びっくりしたという話だ。
まあ普通のカイストだってどんどん墜滅して消えてるんだから、一般人の成り上がりのあいつには、二度と会うこともないだろうな。
注)墜滅とはカイストがその記憶と力を失いカイストでなくなることである。諦める、心を折られる、飽きる、自分に疑問を持つ、目標を達成して満足する、などの理由でカイストは墜滅する。次に転生した時は何も覚えていない無力な一般人である。毎年多くの一般人がカイストの道を歩み始めるが、毎年それと同じくらいのカイストが墜滅している。
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四千世界に名だたる、自由を愛し誇り高く慈悲深いたまに悪戯好きな偉大なるフロウの気まぐれ日記 狂気太郎 @cursedone
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