正暦20000000106年第38日 俺の二つ名について

 やはりというか、明日のつもりが一ヶ月以上過ぎてしまった。というかそれでもちゃんと続きを書こうとしているのだから、俺にしてはかなり頑張った方だと思うのだ。

 で、俺の二つ名の話をしよう。糸を張ったり投げたりするから『蜘蛛男』と呼ばれることが多い。血の糸に粘着性を持たせられるから確かに蜘蛛っぽいことも出来るが、切る方が手っ取り早いんだよなあ。糸を振り回して獲物を切る蜘蛛というのは俺も見たことがない。

 もう一つよく呼ばれるのは『気まぐれフロウ』だ。これは俺自身が納得しているというか、仕方がないと思ってるところがある。

 カイストってのは凄く高い目標があって、強固な信念があって、地道な努力を重ねて、望む自分になるために真実を積み上げていく。それが世界の法則を曲げる我力になる。

 我力ってのはそもそも何なのかってことについてはある学者の出した説があって、「我力とは、説得力である」って話なのだ。

 これだけ努力したのだから、これくらいのことが出来るようになってもいい筈だ。この技のためにこれだけ修行したのだから、凄い結果が得られて当然だ。嘘をつかずこれだけの約束を守ってきたのだから、自分のやることは真実になる筈だ。その主張を世界にぶつけて、世界を説得して納得させて、法則の進行にちょっとだけ特例を認めさせる、ってことらしい。

 詳しいことは面倒臭いので覚えてないし、他のカイストも分かってないというかそんなこと気にしていない連中が殆どだと思うが、それでもカイストは真実を積み上げるために頑張っている。自分のスタイルを変えないし、決めたことは曲げないし、嘘をつかず約束を守る。

 だが俺は、そういうことに縛られたくないのだ。

 自由がいい。窮屈なのは嫌だ。好きなことを好きなようにやりたい。気ままがいい。何かを背負わされるのは御免だ。自由自在という奴がいいのだ。

 だから俺は嘘をつくことになっても気にしないし、約束を破ったり守ったりするし、気分次第で敵を殺したり見逃したりムカつく味方を殺したり偉そうな依頼人を殺したり契約を果たした後で依頼人を殺したり依頼人を殺した後で契約を果たしたり果たさなかったりつい敵も味方も皆殺しにしたりする。

 『気まぐれフロウ』と呼ばれるのも仕方がないのだ。

 ちなみに俺はそれでずっとうまくやっているが、たまに俺に憧れて真似する奴がいてもすぐに失敗して消えていく。俺の前でそんな奴がいたらムカつくのでつい殺してしまうしな。

 なので自由気ままにやって長続きしているカイストというのは俺くらいのものだろう。

 そんな俺なので、日記を着実に書き続けるというのは難しいし、書き続けるのが義務になってしまうようでは逆にいけないと思うのだ。

 気が向いたら書く。そのくらいでいいじゃないか。

 あ、言い訳じゃないからな、これは。まだ書き続ける気持ちはあるのだ。今のところは。


注)『蜘蛛男』という綽名であるが、これをある言語に訳すとどうも問題が生じそうである。よってフロウの綽名としては『気まぐれ蜘蛛』を推したいのであるが、定着してしまった綽名というのはなかなか変更が難しいようで、多くのカイストがフロウを『蜘蛛男』『気まぐれフロウ』と呼び続けている。

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