正暦20000000106年第2日 何を書くか

 よし、ちゃんと翌日にも書くことが出来た。もう大丈夫だな。

 で、何を書くかということになるのだが、いざ書こうとすると思いつかないもんだ。

 まあ、まずは、俺が何者かという話からかな。

 自分の日記に自己紹介を書くのも妙な気がするが、最初だからいいんじゃないか。何百億年かしてから自分で読み直す時に面白く感じるかも知れない。後から読み直すことがあるかどうかは分からないが。

 俺はフロウだ。カイストの中でもかなり古株の方だと思う。俺と同じくらい長く生きてる奴ってのは多分後二人くらいだ。一人は文明管理委員会というクソ面倒な組織を運営してる。もう一人が今どうしてるのかは知らん。もう消えてるかも知れないな。

 文明管理委員会はとにかく面倒臭い組織だ。世界の平和とか人類の幸福のためとかお題目を掲げてカイストを縛りつけてやがる。そういう自分達自身がカイストなんだがな。

 いや、今回はそういう話じゃないな。俺の紹介だ。

 得意なのは自分の血を材料に糸を作って操ることと、血を毒にして噴きかけて敵を溶かすこと、誰にも気づかれず潜むこと、死んでもすぐ転生して復帰すること。後は、隙間をくぐることかな。

 血の糸は大体手首の内側から染み出させて伸ばすが、別に全身の何処からでも作れる。ただ、振り回して伸ばすから手足からが多いな。一旦根元で切って腰に巻くこともある。で、何かに粘着させて引っ張ったり縛ったり、敵をぶった斬ったりするのに使う。カイストにも見えないくらいメチャクチャ細く出来るし、その状態で俺がその気になるとメチャクチャ鋭利になる。それをこっそり誰かの首に引っ掛けて、適当に放置して、気が向いた時に引っ張って首を切り落として遊んだりもする。糸は何処まででも伸びるしゲートを通って別の世界にまでくっついていく。その気で引っ張った時は一瞬で縮んでどれだけ離れていても相手を輪切りにする。同時に数千人に繋いでいると、どの糸が誰のだか分からなくならないかとよく聞かれるが、繋いでいる相手のことはなんとなく感じ取れるので間違えることはない。あっても、まあ、たまにくらいだ。他にはそこら中に張り巡らせてトラップにしたりする。

 血を噴きかけるのはたまにしかやらないな。血が勿体ないから。

 実は、隙間をくぐるってのが俺は一番自信があったりする。他のカイストからは魔術を使っているとか、インチキとかよく言われる。

 例えば相手が剣で斬りかかってきたら、よけるよな。怪我しないように、安全な方に体を動かす。

 で、相手が二刀流で斬りかかってきても、よける。相手が五人がかりで斬りかかってきても、刃と刃の隙間にうまいこと体を持っていって、くぐり抜ける。これが多分、原点だと思うな。

 で、更には相手が百人、千人になって、剣が弓矢や銃になって、雨のように矢や弾丸が降ってきても、俺には安全な隙間というのが見えて、くぐれてしまうのだ。

 そのくらいなら出来るカイストは割といる。Aクラスなら。だが、俺は更に進んで、安全な隙間が自分の体より小さく細くても、くぐることが出来てしまうのだ。至近距離で爆発が起きて、無数の破片とか衝撃波とかが飛んできてその安全な隙間が数センチくらいしかなくても、余裕でくぐり抜けてしまう。数ミリとかでも行ける。集中すればもっともっと細い隙間……分子の隙間まで見えて、抜けてしまえるのだ。

 強力な結界に閉じ込められても、結界を破らずにそのまま抜けてしまえる。高密度の壁に突っ込んでそのまま向こうまですり抜けられる。我力で固めた壁でも行ける。で、見てる奴らは信じられないって驚く訳だが、俺にとっては隙間だらけなんだよなあ。

 この隙間くぐりが出来るのは俺以外には『隻眼影』ルーンくらいだろう。俺よりはちょっと劣るが。奴はその代わり亜空間に一時退避してやり過ごすことも出来るな。

 ああ、隙間をくぐるといえば、ザム・ザドルとガリデュエにはひどい目に遭わされた。混沌がどうたらこうたらで、世界の外に放り出されたのだ。『裏の目』ガリデュエには借りがあったからまあ許してやるが、ザムザムの奴は礼一つ言いやがらねえ。ムカついたのでバックレついでに研究所を燃やしてやった。それでも奴は平然としてたな。

 ああ、そうだ。俺の綽名というか二つ名のことも書いておこうと思うが、疲れてきたので続きは明日だな。


注)文明管理委員会は人類の誕生から滅亡までを見守り、管理する組織である。文明の健全な進行が人類の幸福に繋がると考え、それを阻害するカイストの活動を制限している。委員会が管理する世界ではカイストの存在は隠蔽されている。フロウと同じくらい長く生きているというのは、委員会の設立者であり長老の一人を務めているアーズのことであろう。

  カイストはその力量によってクラス分けされている。Cクラスは駆け出しである。Bクラスは一般人にはほぼ殺されることのなくなった段階で、銃弾に対応出来ることが一つの目安となっている。Aクラスは神の領域である。

  我力とはカイストが持つ、世界の法則を曲げる力である。カイストは我力を使って様々な能力を発揮する。同じものを魔術士は魔力、呪術士は呪力と表現することもある。

  『究極の黒魔術師』『暗黒塔』と呼ばれるザム・ザドルをザムザムの愛称で呼べる者は非常に限られている。呼んでも別に怒ったりはしないらしいが、皆怖くて呼べずにいる。

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