正暦20000000182年第206日 強さについて
うん、このくらいのペースで充分だと思うのだ、俺は。
今回は俺の強さについて書こう。
まあ自慢でもあるが、相当強い。俺が殺せない奴なんてちょっと思いつかないし、誰相手でも負ける気はしない。ただ、我力防壁がないからあっさり死ぬ時は死ぬんだが。
カイスト・チャートのフリー部門で暫く一位だったこともある。チャートの主催がガルーサ・ネットに移行する前だ。ただ、俺のやり方が汚いとか、死んだ後すぐ復活してやり返すのがズルいとかで、今はチャートから追い出されている。
で、今のカイスト・チャートの一位は『剣神』ネスタ・グラウドだ。奴が一位を獲ってかなり長くなるが、ずーっと一位のままだ。
奴がAクラスになったくらいの頃から、ちょくちょくからかって遊んだものだ。必殺の上段斬りをよけまくってたら悔し涙を浮かべてたな。
それから修行の邪魔をしてやった。奴の修行は独特で、ただ一心不乱に上段斬りの素振りばかりぶっ続けで何年でも何百年でもやってやがる。だから奴の横で飯食ったり奴の足元で昼寝したり耳元で歌を歌ったり素振りの剣をいちいちよけたり目の前で小便したりしてやった。暫くはまるで気にしてないような無表情で素振りを続けるんだが、いきなりぶち切れるんだよな。狂ったような声を上げて追いかけてくるから慌てて逃げた。で、奴が修行を再開したらまたちょっかいかけてやるのだ。
あれでかなり忍耐力が鍛えられたようで、最後は何をしようが平然と素振りを続けるようになっちまった。面白くない男に成長してしまったな。悔しがって泣いていた頃が懐かしいよ。
その結果、不動の一位になったのだから、ネスタ・グラウドは俺が育てたといっても過言ではないだろうな。
ネスタ以外で強い奴といったら、まあ色々といるが、パッと思いつくのはやっぱり『隻眼影』ルーンだ。『片目のルーン』とも呼ばれてるな。
隠密・奇襲・暗殺の得意な奴で、俺に近いタイプだ。昔チャートで一位だったこともあるが、順位にこだわる奴じゃなかったから最近は百位以下に落ちてんじゃないかな。
隙間くぐりも出来るし、って、ルーンのことは前にもちょっと書いたな。
何というかな、性格は俺と真逆というか、ストイックの権化みたいな奴だ。色んな強化武器を溺れずに使いこなしてるのは奴くらいのもんだろう。普通の武器を使っても強いし、素手でも強い。うーん、化け物だな。
そういえば、敵に回すとより厄介なのは俺とルーンのどっちだという馬鹿なアンケートをガルーサ・ネットが企画したことがある。
僅差でルーンの勝ちだったな。
ルーンは色々な道具を使って罠を張ったり超遠距離から狙撃したりするし、敵に回すと決着がつくまで何百万年でも追われ続けることになるのだ。
罠張ったり遠距離でも糸で殺したり隠密奇襲は俺も同じだけれど、途中で飽きてやめたりするので俺の方がまし、ということらしい。まあ何十億年かして昔のことを思い出して殺しに行ったりもするんだけどな。俺の方が嫌という意見もかなり多かった。周辺被害を気にせず嫌がらせしてくるからだとか。
ちなみに、味方にすると厄介なのは俺の圧勝だった。
まあつまり、俺は関わりたくないカイストナンバーワンというところかな。あっはっはっ。
後は、強い、というのとはちょっと違うのかも知れないが、敵に回したくない相手というと、ガリデュエだな。
これは俺とガリデュエでアンケートされたらガリデュエの勝ちだろう。心の奥に隠してる秘密を向かい合ってるだけで掘り出されてしまう。直接会わなくても当時の現場をうろつかれて掘り起こされたらもう防ぎようがない。
それに、敵に回すと頭をいじくられるのが怖いんだよな。頭というか、魂というか、記憶をいじくられるのだ。一時的な精神操作じゃなくて、取り返しのつかないレベルでいじくられるのだ。百億年以上積み上げてきたものがポンと無になって、自分が自分でなくなるというのはカイストにとっては物凄い恐怖なのだ。だからガリデュエに敵対するのは本物の怖いもの知らずか、駆け出しの馬鹿くらいだ。で、そいつらはすぐに消える。
俺自身はガリデュエとは、微妙な関係かな。何度も殺したりしたけれど、別に本気で憎んでる訳じゃない。向こうは殺された後でも平気で頼み事とかしてくるし、なんかこう、ああいう時は断れないのだ。俺の苦手なツボを分かってて突いてくる感じだ。
気持ち悪い奴だが、幾つか借りもあるし仕方がない。詳しくは覚えていないが。もしかすると頭をいじられてそう思わされているのかも知れないが、そうじゃなくて本当に借りがあるような気がしている。
でもそういう感覚を持つようにいじくられているのかも知れないがな。
取り敢えず今日はこの辺にしとくか。
注)我力防壁とは我力で肉体をコーティングして物理的攻撃を防ぐ技術である。Bクラスのカイストなら殆どが習得している。
カイスト・チャートはカイストのジャンル別ランキングであるが、皆が最も注目するのは無差別(フリー)部門であり、強さを求めるカイスト達が順位を上げるため血眼になっている。Aクラスの定義には、この無差別チャートで一万位以内を安定して維持するという条件も含まれている。
『裏の目』ガリデュエの本職は検証士である。人物や物品、現場から関連する情報を読み取り、過去の言動やその時の感情、出来事を正確に掘り起こすのが検証士の本分であるが、ガリデュエは読み取るだけでなく情報を改変したり消去したり出来るのである。
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