第2話 転生

気がつくと俺は冷たい地面の上に倒れていた。

いつもと違って寒い。

匂いを嗅ごうとすると、鼻より先に口が地面に当たった。


前足だと思っていたものが妙に長く、指が5本に分かれている。

蹄もない。


俺は人間になっていた。


周りから何も言われない所を見ると、俺は人間として特におかしな所があるわけでは無さそうだ。


しかし静かだ。

何もかも音が小さい。

何も聞こえない。


慣れない体を動かして周りを見回すと、1箇所、音が聞こえる場所があった。


俺はフラフラと立ち上がり、そこへ向かった。

後ろ足で立つのは交配の時だけだったが、この身体だと楽に立てた。


音が聞こえた場所に着くと、そこにはさっき見た5人と同じような見た目のやつらが集まっていた。

1列になって少しずつ移動している。


「ちゃんと並べよな」


1人の男に声をかけられた。

俺が何も反応しないのを見て、


「参加者だよな?コープスペイントしておきながら、見物はないだろ?」


よく分からないが首を縦に振ってみた。

俺が首を横に振るのはエサを食べる時だけだ。


「このバンドのボーカルが自分を撃っちまったから、今ボーカルオーディションやってんだよ。順番だから並べよな」


言われるがまま、俺は列に並んだ。


遠くの方に、口から血を流して倒れている人間の周りで肩を組んでいる4人の写真が見えた。


列に並びながら観察をしてみると、どうやら人間が出す音に合わせて何か言えば良いらしい。

俺は人間の言葉はあまり分からないが、周りのやつらが「あの声は凄かった」「嘔吐するような、下水道の様な声だった」とお互いを批評している。


俺の番が来た。


「じゃあBPM200で曲をやるから、合わせて」


何言ってるのか分からないが、そこから聴こえた音は、俺がいつも聞いていた音だった。

どこか遠くから聞こえる美しいメロディ、絶え間ない振動とノイズ。


俺はいつも通りに声を出した。

エサを貪る時の声、交配の時の声。

声を変えるたび、周りがざわついた。


そして屠殺場へ連れて行かれる時の声を出した時、音が消えた。


後ろを見ると音を出していた人間達が皆、涙を流しながら、瞬きもせずに俺をみていた。


周りの人間達も同じように涙を流していた。


コープスペイントが涙で流れ落ちると、そこには別々の人間の顔があった。

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自然発生的ブラックメタルと共に生きてきた豚の転生譚 ー転生した豚はブラックメタル界の神となるー 鏡聖 @kmt_epmj8t-5

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