自然発生的ブラックメタルと共に生きてきた豚の転生譚 ー転生した豚はブラックメタル界の神となるー

鏡聖

第1話 自然発生的ブラックメタル

糞尿と発酵した草の酸っぱい満ちた房。これが俺の住処だ。

周囲にはいつも工事車両が走り回り、どこかで石を砕く音がする。

「クラシックを流すと発育が良くなる」ということで導入されたスピーカー。

これが1台あたり100円もしない代物なので、クラシック音楽がノイズ混じりの悪魔的音楽に聴こえてくる。

何の音響も考えず、適当に置いてあるので常にハウリングしている。


遠くで聴こえる美しいメロディ、絶え間ない振動とノイズ、そこに俺達豚の声が乗る。

農場にシンフォニックブラックメタルが生まれた瞬間だった。


他の奴らはどう感じていたのかは分からないが、エサの時間はエサを貪る音に加えて皆の心臓の鼓動が始まり、壮大な序曲の開始を思わせた。

繁殖シーズン、一日中鳴り響く雌雄の声は重厚なコーラス。

極め付けは屠殺場へ連れて行かれる時の声だ。

俺達も馬鹿じゃない。

何をされるか分かっている。

ここで出す叫び声はトーン、音量、美しさの全てにおいて豚生最高クラスだ。


全ての生活をブラックメタルと共にしてきた俺にも、ついにその日がやってきた。

最高の声を出してやる。


遠くの方で四季が聴こえた気がする。

ノイズまみれでよく分からないが、多分そうだろう。

俺は曲に合わせて声を出した。


その瞬間、目の前が真っ白になり、白塗りの人間が5人現れた。


「素晴らしい声だ。世界から消えるのは惜しい。もう少し歌ってみないか?」


真ん中の男が言った。

目の周りを黒く塗っている。


声が小さくてよく分からないが、人間が俺らの言葉を喋っている?


「ああ歌いたいね」


そう答えると彼らは頷いた。

全員が中指と薬指を折り曲げて親指と合わせ、ツノの様な形を作って俺に向けた。


「Hail」


世界に再び光と影が現れた。

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