第9話 音が繋ぐ

とある町の片隅にある【ホシユメ】というカフェで、私はアルバイトをしている。

かれこれ結構長くて、一年以上になる。

そんな私はてんちょーから厚い信頼を得ているらしい。

ある日、いつものように楽しく緩く仕事をしているとてんちょーに呼び出され、失恋した妹さんを慰めて欲しいと頼まれた。

妹さんはホシユメでバイトリーダーをしていて、私はいつもリーダーと呼んでいる。リーダーは無口で無表情なてんちょーとは正反対でとても気さくな人だ。

たまに自己中な部分を感じるけど、明るくて素直ないい人だと思う。

私とリーダーは 恋人できない同盟を結んでいたのだが、最近リーダーには恋人ができたと言っていた。

でももう別れたらしい。

ここ一ヶ月後程はバイトに来ていないみたいだったので、てっきり彼氏とラブラブしてるのかと思っていた。

でも実際にはリーダーはとても意気消沈しているらしく、てんちょーはどうにかして元気づけたいようだった。

けれどてんちょーはてんちょーだから、きっと上手くいかなかったんだろう。

そんな訳で私に白羽の矢が立った訳だが、てんちょーはお礼に好きなメニューをご馳走してくれるらしいので、私は二つ返事で快諾した。

そしてリーダーと予定を合わせて次の週末にカラオケに行くことになった。

「カラオケで沢山歌えばきっと元気になりますよ! 私に任せてください!」

「カラオケになったんだ。そっかそっか」

「なんです?」

「別になんにも。楽しんできて」

「まあ楽しみますけど……ホントなんなんです? その意味深な感じメッチャ気になるんですけど?!」

てんちょーは何も答えてくれなかった。

カラオケに行くと何かあるの?



週末、リーダーと駅前で待ち合わせて早速カラオケ店に入った。

もちろんプランはフリータイムだ。

歌って歌って歌いまくって過去の男なんか忘れちまえばいいんだ。

そう思っていたけど、リーダーは想像していたより元気そうだった。

空元気かもしれないけど、ドンヨリしているよりはきっといいはずだと思うことにして、私達は思い思いに好きな曲を歌った。

全然曲の好みが違ってお互いに知らない曲ばかりだったけど、それはそれで意外と楽しかった。

「ちょっと私トイレ行ってきますね」

「いってらー」

部屋を出てドアを閉めるとさっきまで聞こえていたBGMがくぐもった感じになる。

廊下を歩いていると各部屋の前で流行りの曲や昔のアニソン、英語の曲が聞こえてくる。

そんな中に私の好きなアーティストの曲を歌っている部屋を見つけた。

趣味が合う人がここにいるな?

そう思うとちょっと嬉しくなって、自然と笑顔になっていた。



用を足し、ドリンクバーの横のベンチで少し涼んでいるとクラスメイトの男子に会った。

ただ、その子とは話したことすらないぐらいの関係性で、目は合ったけどお互いに軽く会釈する程度しかしなかった。

彼がトイレに入っていく姿を見送り、またかち合うと気まずいな、と思って部屋に戻った。

私が戻るとリーダーは韓国語の曲で大絶叫の大熱唱をしていて、私はちょっと引き気味にその姿を見届けた。

歌い終わったリーダーはどこかスッキリしたように見えて、マイクに向かって「肉食べ行こ!」と叫び、カラオケはそこで切り上げて食べ放題の焼肉を食べに行った。

リーダーは迷うこと無く一番高いプランを選択し、私の分まで奢ってくれた。



週明け、学校に行くと担任が席替えをすると言った。

テスト明け恒例の成績公開席替えだ。

簡単に言うとおバカから順に前から並ぶ感じだ。

私の成績は真ん中辺なので席も前から三、四列目辺りになる。

担任が用意した中位グループのくじ箱からくじを引き、書かれた数字の席に荷物を移動する。

私は廊下側の席だった。

隣誰かな?

と考えていると「えっと……よろしく」とカラオケで遭遇した男子が横に座った。

「あー、よろしくー」

クラスであまり目立たず、いつも同じ三人グループで教室の隅にいるその子とはこれが初めての会話だった。

特に話すこともないのでこれ以上会話が続くことはないだろう。

そう思った次の瞬間、彼は私に話しかけてきた。

「一昨日カラオケいた……よね?」

「え? あーうん」

「よく行くの?」

「しょっちゅうは行かないよ。あの日はリーダーの失恋パーティーだったの」

「リーダー?」

彼はよくよく私に質問して、そうしているうちに音楽の趣味が合うことが判明した。

「あの日一部屋だけ同じ趣味の人入ってるんだって思ってたら君だったのか!」

「マイナーすぎて誰も分からないんだよね、でもすごくライムが気持ちいいんだよね」

「分かりみー! え、こんな身近に同じラッパー推してる人いるとか運命感じるんだけど!」

「あはは! 確かにそうかも! 良かったら連絡先交換しようよ。もっと話したい」

「するする!」

そんな流れで私は今まで興味すら持ったことがなかった相手と友達になった。



「で今度そのラッパーが出るライブに行かないかって誘われて、もう即答しましたよ! 首もげるぐらい縦に振りました! めっちゃ楽しみ!」

「良かったじゃん」

「なんかてんちょーニヤニヤしてません?」

「してないしてない。その繋がり、大事にしなね」

「あったり前ですよ! 滅多に出会えない同士なんですから!」


◆◆


【夢の媒介人】【視点】

アルバイトの女子高生(17歳)

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