第8話 脱兎の行く末
とある町の片隅にある【ホシユメ】というカフェは小姉が経営している。
アタシには二人の姉がいて、大姉と小姉と呼び分けている。
大姉はチビで童顔だから一番年上だって知らない人は必ず末っ子と間違える。
それがコンプレックスらしい。
小姉は表情筋がほとんど死んでいて初対面の人は顔の強さ(美形)も相まって怖がる。
本人はさほど気にしていない。
それに比べてアタシは姉たちに似て顔も良いし、年相応にいい感じにお姉さんだし、表情も豊かだし、とても社交的だ。
なのに全然モテない。
最近なんかは頻繁にお店に来てくれるカッコイイお兄さんが小姉によく話し掛けている。
なんかちょっと気に入らない。
「店長さんはお休みの日は何をしてるんですか?」
「何も」
「もしよければ次のお休みに映画でも行きません? チケット持ってるんです」
「よくないので行きません」
お兄さんは負けじと小姉に話しかけるけど、小姉は視線だけお兄さんの方へ向けてPCの前から動くことなく返事をする。
これが小姉の昔っからのスタイルなのだが、それを知らないだろうお兄さんがだんだん可哀想になってくる。
だから小姉が冷たい態度を取った後はアタシがフォローをする。
「それ人気の映画ですよね!」
「そうなんです! 気になって誰かと一緒に行けたらなーって思って買ったんですけど……」
お兄さんはチラリと小姉の方を見たけれど、小姉はPCの画面に熱中していて気付かなかった。
「姉がすみません。今別の仕事してるみたいで……聞こえてなさそうです。よかったら私と、なんてどうです?」
「えっいいんですか? 一緒に行ってくれます?!」
「もちろん!」
そうしてアタシはお兄さんとのデートを取り付けた。
◆
デート当日、髪をセットし、バッチリメイクをして気合を入れたアタシは待ち合わせ時間ピッタリに駅に到着した。
「お待たせしました?」
「大丈夫ですよ! 行きましょう!」
お兄さんはとても自然にエスコートしてくれた。
ドアを抑えてくれたり、車道側を歩いてくれたり。
まるで自分がお姫様になった気分で、アタシはますます舞い上がった。
そして帰る頃には自然とタメ口で話すようになっていた。
「今日はありがとう!」
「こちらこそ! 楽しかったよ、またお店に会いに行くね!」
「うんっ楽しみにしてる!」
◆
お兄さんと遊びに行った日から、アタシは毎日姉たちに自慢していた。
初めは小姉狙いだったけど、彼はもう今ではすっかり私に狙いを変えているに違いない。
だって顔が似てるんなら無表情で全く靡かない小姉より、よく笑うアタシの方がいいに決まってる。
アタシは密かに小姉に勝った気分になって、優越感に浸っていた。
そんなある日、大姉が「あいつは辞めときな」と言った。
でも絶対イケメンが彼氏候補のアタシに嫉妬してそう言っているだけだから、大姉の言葉は気にしないことにした。
だって大姉の彼氏はどこにでも居そうなモブ顔のフツメンだから。
そんなわけでアタシはそれ以降も何度も彼とのデートを重ね、ついに告白してもらえた。
人生初の彼氏だ。
世界にアタシ以上に幸せな人なんて絶対いないと確信するぐらい嬉しくて、アタシは彼に記念デートの提案をした。
「交際スタート記念にあのランド行こ!」
「あのって……あの?」
「うん!」
「半年とか一年とかじゃなくて?」
「うん! え? ダメなの? 記念なんだからいいじゃん」
「うーん……まぁ、そうだね……」
彼は少し納得していないようだったけど、最終的には連れて行ってくれることになった。
私は彼の予定を聞いてチケットを予約した。
◆
あのランドに行く当日、私は彼がコンビニで買ってきてくれたチケットを持って、頭にはマスコットの耳を装着して待ち合わせ時間よりも少し早くホシユメに来ていた。
「朝っぱらからカチューシャ付けてるの? 着いてからで良くない?」
「気分上がるからいいじゃん」
「待ち合わせ時間は? もうそろそろだったよね?」
「んーっとね……あ、メール来てる」
彼からのメールには仕事でトラブルがあって出社しなければならなくなり、対応には昼頃までかかりそうとあった。
「えー、せっかくの記念デートなのに!」
「仕事ならしょうがないでしょ。午後から行けばいいじゃん」
「そうだけどそうじゃなくてさー!」
結局彼は昼の二時頃にようやくお店に来て、アタシは少しお説教をした。
その後は普通にデートを楽しんだけど、やっぱり許せなくて埋め合わせにあのランド併設のホテルのディナーで手を打つことにした。
◆
付き合い初めて少しした頃、急に彼の元気が無くなった。
心配になったアタシが理由を聞くと、彼は「上司のパワハラが辛い」と零した。
なんでも心療内科に通って鬱と診断されたらしい。
会社はしばらく休むことになり、その間収入が減るからデートもできなくなるかも、と言われた。
「えー、デート出来ないの? まあしょーがないか、じゃあお家デートにしよ!」
「う、うん……ごめん……」
無気力な彼が心配で心配で、アタシはその日から頻繁に彼の家に通い、彼の頼みを聞くようになった。
「そばに居て欲しい」とか「一人にして欲しい」とか、「あれが欲しいけど外に出たくない」とか「生活費が無くなった」とか。
生活が困窮していく彼を見て、私はバイト代のほとんどを彼に渡すようになった。
そうして何日も過ぎたある日、彼のアパートに行くともぬけの殻になっていた。
「は?」
メールも電話も通じなくて、慌ててお店に駆け込んで小姉に相談すると、「騙されたんでしょ」と言われた。
アタシ、騙されたらしい。
その日の夜、閉店後のお店で大姉にも事の経緯を話すと、「だから辞めときなって言ったじゃん」と言われた。
アタシはあっさりした態度の小姉も、呆れたようにため息をつく大姉も、アタシの心を弄んだ彼も許せなくて、涙が止まらなくなった。
「なんでよ! なんでアタシばっかり!」
◆
初彼に騙されたことを知ってから一ヶ月後、心の傷はまだ癒えていなかった。
そんなアタシに小姉が銀行の封筒を渡してきた。
「なにこれ?」
「あんたのお金」
「アタシのお金?」
「クソ詐欺師から取り返してあげたから、これで高級焼肉でも食べに行けば?」
「え? どうやって……」
「インターネットってすごいんだよ」
小姉は得意気に笑って、封筒を私に押し付けていつものようにPCの前に座った。
画面はネットニュースのとあるページで、その記事のタイトルは「独身経営者を狙うロマンス詐欺師が自首、被害女性へは既に返金済み!?」となっていた。
◆◆
【夢の媒介人】【視点】
三女
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1月9日-修正
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