第6話 先輩の言う「不完全」

とある町の片隅にある【ホシユメ】というカフェで俺はアルバイトをしている。

ここの店長は少し……いやだいぶ変わっていて、シフトが突然消えることが度々ある。

面接の時にその説明はされたけど、まさか本当に気分で店を開けないなんてことがあるとは思わなくて初めは混乱した。

ただ、突発休になった時は本来のシフトの三割分を払ってくれるので文句はない。

むしろ嬉しいぐらいだ。

単発バイトを入れればむしろプラスになるからな。

まあ繁盛している感じではないのにどこにそんなお金があるのかは少し気になるが、聞くのは野暮だろう。

それから俺がこのバイトを気に入っている理由はもう一つある。

それは店長が美人だということだ。

店長とどうにかなりたいとかは思っていないけど、美人と知り合いというだけでなんか気分が良いのだ。

そんな美人店長の話をどこから聞きつけたのか、最近同じ大学の知らない先輩が店長を紹介しろとしつこく絡んでくる。

「よ! 紹介してくれる気になった?」

「しません。これから用事があるので失礼します」

「美人店長のところ? 俺も一緒に行こっかな。んでいい感じに紹介してよ」

「叔母のお見舞いですが一緒に来ます? さわやか系の若い男大好きなんで気に入られますよ。ちなみに叔母は体重一〇〇キロ越えのクソデブです。これでも痩せた方ですけどね、脂肪摘出手術で」

「は? 行くかよそんなオイルババアの所なんか」

先輩は爽やか好青年からは想像もつかないような舌打ちをして去って行った。

けれど実はそんな叔母は存在しない。咄嗟の嘘だ。

本当は先輩が言っていた通りホシユメのバイトに行くところだが、教えてやる義理はない。



バイトは昼前から夕方までの五時間でランチのピークを過ぎるとしばらく暇になる。

「あ、そう言えば」

突然店長の大きな独り言が聞こえた。

普段からあまり喋らないので珍しいなと思って店長の方を見るとバッチリ目が合った。

「あなたの近くに淫らな人がいるみたいだから縁切った方がいいよ」

「え?」

「あ、でもそんな親しい感じじゃないのかな……なんか透けてたらしいし……」

「透けてた?」

「ちょっとお姉ちゃんが気になる夢を見たらしくて」

「お姉さんって、よくお手伝いに来てくれる?」

「お手伝いじゃなくて割引分働かせてるだけだよ」

店長はクスっと笑った。初めて笑った顔を見たが、美人の笑顔とは最早それだけで芸術だな。

と、そうじゃなくて。

「で、そのお姉さんがどんな夢を見たんです?」

実はよく入れ違いでバイトに入っている女子高生の子に店長の能力について聞いたことがあった。

なんでも予知夢を見るらしい。

その子の曰く、店長のお姉さんも似たような予知夢を見ることがあるとかで、何気に気になっていたのだ。

「お姉ちゃんの話によると、眼鏡をかけたコアラが何匹かのウサギに食い散らかされるトラを見てたんだって。でもトラはなんか透けてて、コアラは冷めた目で笑って見てたって」

「眼鏡のコアラって……それが俺ってことですか? ただの変な夢じゃなくて?」

「お姉ちゃんは『あのコアラは眼鏡のバイトくん』って言ってたから。うちのバイトで眼鏡かけてるのあなただけだから」

「そうですか……」

俺にはどうにもただの変な夢としか思えず、予知夢なんて本当は眉唾なんじゃないかと思った。

「まああまり気にしなくていいよ。変なこと言ってごめんね」

「えい、大丈夫です」



店長のお姉さんが見たという変な夢の話を聞いてからすぐ、大学は夏休みに入った。

シフトを増やすと必然的に店長のお姉さんにも会う機会が増え、お姉さんは時々俺に話しかけてきた。

その話題はいつも「身近で痴情のもつれはなかったか?」というもので、俺は正直うんざりしていた。

俺が困っているといつも店長がお姉さんを諫めてくれるのでバイトが嫌になるということはなかったが、正直お姉さんを出禁にしてほしいとは思っている。

まあ店長の身内を出禁なんて到底無理な話だろうが。

そんなこんなで俺の夏休みは美人姉妹に囲まれて過ぎていった。

そして夏休み明け、大学に行くとあの先輩を見かけた。

普段通りの女子ウケのよさそうな清潔感のある格好だが、その手足、そして顔には無数の痣とシップが貼ってあった。

俺は先輩の姿に驚いて思わずじっと見てしまった。

すると俺の視線に気づいた先輩が片足を引きずりながら近づいて来て開口一番こう言った。

「店長ちゃん紹介してくれよー」

「は?」

「見てこれ! 酷くない? 美人な店長ちゃんに慰めてもらわないと治らないわこれ」

「紹介しませんよ。というか一体何をしたらそんな無残な……フフッ」

「笑うなよ! 全ては不完全だったから……一人足りなかったせいなんだ! お前がさっさと店長ちゃん紹介してればこうはならなかった!」

「は? どういうことですか?」

「彼女が七人いれば曜日で割り振れるから順番を間違うことはなかったんだ! お前のせいなんだから紹介しろよ!」

言っている意味が分からずもう一度聞き返すと、先輩は武勇伝を語るが如く話してくれた。

要約すると、六股掛けていてそれがバレて彼女たちにボコられた、ということらしい。

自業自得だ。

そしてこの話を聞いた時、俺は店長から聞いたお姉さんが見たという夢の話を思い出した。

「まじで現実になってんじゃん……」

「あ? 聞いてんのかよ!」

「すみません、これから叔母のお見舞いなんで失礼します」

「あっおい!」

俺は早くこの結果を店長に話したくて駆けだしていた。

走る俺の背中に向かって先輩は何か言いたげに呼び止めて来たので、俺は振り返ってこう言ってやった。

「先輩、確かに俺のせいかもです! 俺の小さい頃のあだ名、疫病神なんで!」

もちろん嘘だ。

でも俺の言葉を聞いた先輩は遠くで絶叫していた。

「お前のせいかよ!! もう一生俺に関わるな!!」


◆◆


【夢の媒介人】【視点】

アルバイトの男子大学生(20歳)

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